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アタシは淫教の伝道師
あの時、なぜ泉水のもとに這って行ったりしたのかしら。
タガヤンにされたことへのショックは、酔っぱらっていたおかげで大部分緩和されていた。いいんだ。だって彼とつきあうことにしたじゃないか。男と女の間ではこういうことはたびたびあるんだ。我慢しようと思うからいけない。スリルを味わうのだと割り切ってしまえば、彼にされたこともエンターテイメントの一つとして受け入れられるはずだ。
でも、心の中には何か割り切れない部分があって、それが泉水に助けを求めに行かせたのだろう。
「ねえ、泉水ったら……。泉水ぃー!」
アタシは赤ちゃんのように這って行き、母親にそうするように泉水を見上げたの。座敷の畳は油じみていて、粘着テープのように手のひらにネチャネチャとくっついた。おまけに渋茶のような臭いを醸し出していた。
下半身がいやにスース―する。後ろからタガヤンに見られていると思うからか。扇風機の風が襟元から侵入して下半身まで冷やしてくれるからか。
「ちょ、ちょっと、葉月、大丈夫?」
親友が差し伸べる手を、アタシは胸に抱いたわ。腹をすかせた乞食のようにね。泉水にききたいと思ったから。アタシ、どうしたらいいんだろうって。
「かなり酔ってるのね……」
心配してくれるのが涙が出そうなほど嬉しかった。泉水はいつもアタシを頼ってくるけど、本当はアタシの方が泉水を必要としているのだ。そんなアタシであることを泉水はわかってくれているかしら。
「タガヤンとおつき合いしてみるから」
「そ、そう?」
あの時、親友は心配そうな目でわたしを見てくれた。いつも蓮っ葉なことばっかりやってるけど、本当は心の線が細くてもろいことを彼女はよく知ってくれているから。
本当はこういいたかったの。
──アタシ、パンツ脱がされちゃったの。座卓の下で。
心の中で精一杯強く泉水に訴えかけた。一生懸命訴えれば、泉水は親友だからアタシが今どんなに恥ずかしい状態なのか伝わるかと思った。
──そんなに淫らな女だと思われているのかな。男がやりたいこと、何でもやらしてくれる女だと思われているのかな。
男に玩具にされていることがくやしかった。
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