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処女を守り通した泉水と童貞を守り通した先輩が無事男と女になりました。──ハハハ! そんなシナリオなんてあるわけない。罪を犯させるの。泉水の前で東条先輩が。そして先輩の目の前で泉水が罪を犯す。自分が罪の血統であることを思い知らせてやるのよ。悪魔的な手法で。もとい! 神業的手法で。
そのあとよ。二人が浄められ、祝福され、めでたく結ばれるのは。
タガヤンが新歓コンパでアタシに「オレとつき合おう」っていってくれた。最高の賛辞ではないか。
「タガヤン」というのは彼が田川姓であることとは無関係なの。サークル部員(泉水を除いて)はみんな知っていることだけど、ここで話しておくわね。
昔、とはいってもそんな何世紀も昔のことではない。ユーラシア大陸の大部分をソビエト連邦という国が支配していた時の話。
シベリアには数多くの少数民族があったの。ソ連邦は少数民族のロシア化政策を推進した。ある民族は強制的に移住させられ、文化も言語も忘れてしまった。学校ではロシア語で授業をしたし、近所の住民もほとんどがロシア人。そんな状況になったら、民族としてのアイデンティティも習慣も言語も消滅してしまうでしょ。でもそれはまだいい方で、ある民族は労働キャンプに送られ民族自体が絶滅してしまうケースもあったらしい。現在生き残っている少数民族はごくわずかね。
「タガヤン」というのは、「部族長」をさす言葉だったらしいの。滅亡した民族の言葉らしい。正確な発音はカタカナでは表記できない。アタシがタガヤンから聞いた発音をなるべく忠実にカタカナに置き換えるとこんな感じかな。
トゥッグワーヨェン
「トゥッグ」は朝鮮語のような油が跳ねるような激しさがあって、「ドゥック」のように聞こえることもある。最後の「ヨェン」はドイツ語のウムラウトっぽくくちびるを突き出して発音するみたいだけど、呼気の大部分は鼻から抜けていく感じ。鼻音ってやつかしら。
発音が難しいから単純なカタカナに置き換えて「タガヤン」って呼んでるの。田川さんだからちょうどいいじゃない。
淫靡なご主人様。
もともとはそう意味らしい。
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