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それは部族長が初夜権を行使していたからなのよ。新郎新婦は純潔である必要はなかった。異性を何人経験していてもよかった。彼らの性生活は自由奔放だったそうよ。ただ一点だけ。初夜の前に部族長の「聖なる杭」を打たれなければならない。杭により浄められたかどうかが娘の純潔の唯一あかしだったんだって。
「聖なる杭」に貫かれるということは、千年以上昔にユーラシア大陸を駆け巡り民族の祖を築き上げた英雄にからだを捧げることと同義。部族長イコール民族の英雄なのよ。部族長の精子は英雄の精子。それを受けたら子孫が地上の星屑のように増え広がる──人々はそう信じていたの。
それ、ただの迷信じゃなかったの。だって、その部族はまるでシベリアの神様からの祝福を一身に受けたように生み広がったの。あんな極寒の地にもかかわらずその部族だけ人口の増加が著しかったっていうわ。タガヤンの子種が生命力に秀でていたなんていう説もあるようだけどね。
ある時、予言が下ったの。遠からずタガヤンに敵対する政権ができるから、その前にロシア帝国の領土から逃れよと。どれだけの人々が逃れられたのかわからない。戸籍なんかないし、統計なんて取ってないし。その一部が朝鮮半島を経由して日本にも流れ着いたという説があるわ。証拠はないけど。というか彼ら、周到に証拠は残さなかったから。
ロシア正教の修行僧に化け首都モスクワに侵入した一団もあったの。タガヤンに敵対する政権が樹立される前に根っこを抜き取ってしまおうと決意した、部族でも優秀な一団。
不思議なことに神は彼らに能力を授けたわ。病気を治す魔力よ。彼らが祈祷するとコロナのような伝染病であろうが、エイズのような性病であろうが、精神疾患であろうが不妊症であろうが、なんでも完治したそうよ。
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