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──不思議だ……。
この先輩を前から知っているような気がする。一種のデジャヴュだろうか。長身で、目鼻立ちが整っていて、話も知性に縁どりされている。酔えば酔うほどやさしくなる。
男のからだから熟れた果実の香りがした。彼のまわりにはいつも南の島の薫風が吹いているんじゃないだろうか。
──運命の人っていうのはね、前にどこかで会ったような気がするものなのよ。
母がこういっていた。わたしを身ごもらせて逃げちゃった男が運命の人だなんて、なんて見る目がない人なのだろうと思ったけど、いま泉水は母の言葉にうなずいている。
そこへ葉月の言葉が重なる。
──恋とか、ロマンとか……。
ああ、わたし、東条先輩に恋してるのかな……。とすると、女の心理なんていうものは単純だ。ちょっと整った顔をして、知性があって、女の子に優しい男に引かれてしまう。そこに酒があり喧騒があれば、ああ、以前どこかで会ったかもしれない、運命の人かもしれないなんて、ありもしない妄想にそそのかされる。恋に落ちたことを正当化しているのだ。
──え? カップル宣言って? わたしとこのステキな先輩がカップル? え? ウッソぉー! 信じられない。でも本当だとしたら、すっごく嬉しい!
まわりを見渡すと、集まったのが12人。ほとんどがカップルだ。まだ始まって1時間もたってないのに、すでに肩を並べ座敷の壁にだらしなく寄りかかり、お互いのからだを撫でるようにしているカップルもある。
心臓がドキドキしてしまい、叱られた子供のように視線を落とす。
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