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「ほらほら、泉ぃー。もうね、アタシたちね、高校生じゃないんだから、冒険してもいいんだよぉー」
てっきり左隣で二年生の男の先輩とじゃれていたと思っていた葉月が、しなだれかかるように泉水にからだを寄せてきた。彼女の細い手がジョッキを座卓に勢いよく置いたから、ガツンとすごい音がでた。怒ってるのかなと思った。みんな一斉にこっちに振り向いた。
「いきなりカップル宣言だなんて、うらやましい」
ダラーッと、日向で溶けたアイスクリームみたいな感じでいうのを見ると怒ってはいないらしい。
「ち、ちがうよ。酔った勢いでの冗談でしょ」
東条が向こう隣の部員と話し込んでいるのを確かめつつ、彼女の耳にそっとささやいた。
「アタシも東条先輩みたいな先輩とカップルになりたいのぉー!」
けっこう大きな声が出た。とろんとした視線の先には東条がいる。声と視線に引っ張られるように彼は振り向きかけたが、何らかの意思が働いたのだろうか、また向こう隣の部員とまじめな話をしていた。
やっぱり葉月の入部の目的は東条なのか。ステキな先輩と仲良くしたいのに泉水に取られてしまったとやっかんでいるのだ。東条の方はといえば、葉月を無視することに決め込んでいるといった風情だ。
「ねえ、泉水ぃー、恋がしたいのぉー。かっこいい男とぉー」
大きな胸が二の腕にぷにゅっと押し付けられる。そしてユサユサと揺らされる。飲み物がこぼれそうになり、グラスを慌ててテーブルに置く。
熱い。女のからだがこんなに熱くなっている。きっとアルコールがからだの中で燃焼しているんだ。顔が近すぎでもうちょっとでキスしそうになった。
「カッコいい男なら、こっちにいるだろう?」
左の男が葉月の腕をつかむ。浮気な女房を取り戻しに来た嫉妬深い夫のようだ。
「イヤーだぁ。だってさっきからエッチなことばかりやってくるじゃん」
「何いってんだよ。オレたちもう大学生だぜ。お酒を飲むときは濃厚に触り合ったり抱き合ったりするんだよ」
そういっているそばから、無骨な手が後ろから回り、柔らかいふくらみを鷲掴みにする。
「きゃっ!」
と声を上げ、慌てて口もとを覆ったのは、胸をつかまれた葉月ではなく、泉水だ。女が男に胸をつかまれた場面を初めてみたからだ。ほんとうに生まれて初めてだったのだ。
──こんなことが私の目の前で起こるなんて……。
ショックで息が詰まった。
身をよじって抵抗する葉月。でも泉水が見るとき、それは抵抗というより焦らしだ。からだをくねくねよじってわざと男を煽っているようにも見える。
抵抗するなら、男の手を払い落とせばいいと思う。でも、からだを揺するだけだから、男は撫でほうだい、さわりほうだい、もみほうだいだ。
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