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沼がありました。 小さな沼でした。 背の高い草を分け入った先にようやく見つけることができました。 澄んだ沼でした。 陽光によって色が変わりました。 緑玉、新橋、群青さまざまにそれは美しい色合いでした。 沼の縁に立ちました。 底を確かめたくなりました。 ぽちょんと音を響かせて私は潜っていきました。 生ぬるい沼でした。 静かに沈んでいきました。 底の水は冷たく、身体の熱はしだいに奪われていきました。 深い沼でした。 泥々とした底でした。 もはや感覚を失った身体は沼とひとつになりました。 身を任せました。 心地の良さに浸りました。 それはノスタルジックでありました。 何かに触れました。 温かな何かがありました。 確かにそれは混濁の中にありました。  蘇る感覚。 絶え間なく血液が流れる身体。 繰り返し押し寄せる意識の波。 戻りたくなりました。 今しかありませんでした。 水面に降り注ぐ陽の光を目指しました。
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