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⑤中川咲良
【6年前】
中川咲良は教員採用試験に合格し、念願の教師になることができた。
春から小学校の教員だ。「一体どんな子たちと出会えるんだろう」
同じく春から社会人になる高校の同級生の女2人で、「全員内定おめでとう!」と乾杯して、雑誌に出てたオープンしたての創作居酒屋で2人の船出のお祝いをしていた。
「咲良が先生かー。私だったら速攻で反抗期迎えるわ。」
親友の船越絵美がからかった。
「私の赴任先は小学校なの!そんな即アウェイな状況だったら半年もたないよ。」
「冗談でーす。でも社会人になるのって、私は不安しかない…。」
「大丈夫でしょ。うちら吹奏楽で全国の高校の2位になったんだよ。
体育会系にしごかれてきたんだから、きっとどこ行っても通用するよ。
あんだけキツい毎日乗り越えられたんだもん。
それに自分が素敵であることを目指してれば、素敵な人間が集まってくるよ。」
本当に厳しい練習の繰り返しだったが、それを乗り越えた自信が咲良にはあった。
「確かに。山平先生には存分怒られたけど、さすがにあの全国大会の舞台に
立てたのはあの人のおかげだもんね。感謝しなきゃだし、咲良の言う通りかもね。」
「しかし咲良なんて、勤務先が学校だもんね。業務量も多いだろうし、
ストレスたまることもあるだろうけど、呼んでくれたらいつでもストレス発散付き合うからね。」
「お、嬉しい事言ってくれるじゃん。生徒の記憶に残って感謝される
先生になるのを目指すよ。」
「うわー、咲良が、あの泣き虫咲良が成長してるー! 感動!」
もう完全に酔っている絵美は泣きじゃくっていた。
「しかし、後ろの個室の団体連中騒がしいねー。」
「そんなの、構わないでいいよ。今日は大事な2人の門出の食事だし。」
気持ちよく酔って、お腹も満たされた2人は2軒目の行きつけのBARへ移動しようとしていた。
会計をして外に出たら、多分さっきの騒がしかった個室の連中だと思われる団体が外に出ていた。
「それじゃ桐谷、気を付けて帰れよ。」上司らしい人が、35歳くらいの男に告げてタクシーで帰っていった。
BARの方面と、さっき「桐谷」と呼ばれた男は行先が同じ方面だった。
信号が緑になり、先に桐谷という男が横断歩道を渡っていたところ、ちゃんと前を確認していなかったのか、黒塗りの外車がスピードをつけて右折してきた。
目の前の桐谷が思いっきり跳ね飛ばされた。あまりの突然の事故の目撃に
絵美と咲良は驚いて駆け寄った。男は血まみれである。
「凄いケガ…大丈夫ですかー?聴こえてますかー?」
黒塗りの車は数十メートル先に停車して、運転手は救助より先に電話をしてるようだ。
周りのお店の人たちも、事故の音に驚いて駆け寄って来た。
「おい、救急車呼べ!早くしろ!」
目の前の血まみれの男が横たわる状況で、咲良は震えながら救急車を呼んだ。
⑥へ続く
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