⑥陸人の前世の恩人

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⑥陸人の前世の恩人

 もくもくとした入道雲とナレーションされる熱中症の注意報。    鳴きやむことのない蝉達、外に出たら影に入らないと汗が吹き出る快晴の1日、クラス全員が待ち望んでいた初めて(※陸人は除く)の夏休みがやってきた。  今日は一学期の終業式だった。  猛暑対策のため、教室のディスプレイを用いて校長が「各々にとって有意義な成果を二学期に持って元気にまた集合してくださいね。」簡単な終業式としての挨拶の言葉を送った。  咲良先生が全員に夏休みの宿題と、各自の通知表を配布した。  皆は想像してたより大量の宿題に不満そうだったが、陸人はその気になれば絵日記以外は1日で終えれそうだった。  夏休み初日、隣の席で仲良くなっていた、和菓子屋の杉田貢の家に遊びに行った。ゲームも数時間続けると飽きてしまったので、 「近所の公園で少しミニサッカーしない?」と聞くと、 「え…?陸人知らないの?あの公園はボール遊び禁止なんだよ。行ってみる?」  公園に行くと、本当に「お年寄りや体の弱っている方々は、金あみにボールのあたる音が大変苦痛に感じます。球技は絶対におやめください。人の痛みの分かる人になりましょう」の貼り紙があった。  ウソだろ…?今の公園ってこんなことになってるのか?  貢の家に戻り、空調の効いた部屋の中でゲームの続きをやって貢の家を出た。  数日後、前世の親友の秀島和明宅に陸人は居た。 ”球技禁止公園の現状”について、和明と話をしていた。  これはどこの管轄権限での貼り紙なんだ?  これって憲法十三条の「幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」に抵触してる気がするんだが…。「公共の福祉」の今風な解釈なのか?  陸人の前世は保険屋だったので、損害賠償系の民法は熟知していたが、この事案はどうなのか、個人的に興味もあったので、前世で交通事故の仲裁等で大変お世話になった、黒島弁護士の所に和明と2人で訪れた。    事務所に入ると女性事務員が駆け寄ってきたが、先生が居られるなら直接お話したい旨伝えると、怪訝な表情を浮かべながら黒島を呼びに行った。  2階から降りて来た黒島は「初めまして。どのようなご用件で?」  陸人は、おもむろに「先生がお好きな言葉は、タレスの  ”最も困難なことは自分自身を知ることであり、最も容易なことは他人に忠告をすることである。”  一番好きな音楽はジョン・コルトレーン。  先生はリッツ・カールトンのBarが行きつけだったので、よくご同行しました。いつも席はカウンターの一番右でした。」  黒島は驚きを隠せなかった。「キミには桐谷君の魂が宿ってるのか?」  陸人は頷いた。「なかなか即座に信じられる話ではないが、あのバーに一緒に行って音楽話に花を咲かしたのは、桐谷君だけだったからな。」 「今、このからだでの生活で様々な問題が生じてます。以前のように金銭契約でのご相談はできないのですが、先生が何かお調べのときに子供なら怪しまれない仕事を引き受けることはできます。いかがでしょう?」 「うむ…?、取引を持ちかけてるのか?」 暫く考えて黒島は答えた。「よし、引き受けよう。」 「但し、大きくなって稼げるようになったらBarで存分奢らせるぞ。」 「ありがとうございます!喜んで。お好きなだけ注文してください。」 「で、今回の問題は?」  陸人は公園での問題を話した。 「なるほどな。それはそれぞれの自治体が都市公園法を利用して、自治体の区域内の各公園ごとに禁止条項を設けているはず。それを役所で調べてみるがいい。  各公園で遊戯可能な内容と、禁止している事が分かるから、自由研究の題材にして同級生にそれぞれの場所で可能な事を教えてあげるといい。  最近の子はインドアの度が過ぎる。土や自然の水と戯れなければ、生きるのに必要な免疫を得ないまま成長して、後々大変なことになる。その身体のキミもな。」 「さすが先生です。早速区で調査して情報共有します。」 「さっきキミが提示してくれた、私の仕事で子供の姿なら怪しまれないものも確かにある。めったにはないが、その時には頼むよ。」 「勿論です。」陸人は微笑んでそう答えた。  夏休み終了後、陸人の自由研究の発表内容は、生徒たちも興味津々で聞いていた。咲良先生が、これを今年の「全国自由研究コンテスト」に提出すると発表した。  授業終了後、咲良先生はサッと教室を出て、足早に校長室へと向かった。 ⑦へ続く
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