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①輪廻転生って記憶残るの?
高木陸人はこの春から小学生になった。
陸人には誰にも打ち明けていない秘密があった。陸人には「前世の記憶」がばっちり残っているのだ。
もう少し正確にいうと、巷でいうところの物心つく時期に、陸人に「前世の記憶」が戻ってきたのだった。
数年前のことだった。3歳の陸人はある日急に失っていた記憶を取り戻した。「あれ?、なんで俺はここに…?」
混乱するのも無理はない。″高木陸人″として3歳児の扱いを受けてる自分の記憶では年齢は確か38歳であり、名前も″桐谷翔太″のはずだった。
″桐谷翔太″としての最後の記憶は、勤務先である保険会社での飲み会後、徒歩で家に帰っていたところまでだった。
横断歩道を渡っていると夜で見えづらかったのか、右折してきた車に強くはねられ、今まで経験のした事のない全身の痛みを感じ後、駆け寄って来た人の「すごい怪我…大丈夫ですかー?聞こえてますかー?」
「おい、救急車呼べ!早くしろ!」という言葉だけ耳に入って来ていたが、だんだん翔太の意識は遠くなっていった。
随分長い間眠っていた気はしたが、目を覚ましたら、見た事のない部屋で、
自分より若い知らない夫婦が、自分に向かって「陸人ー、かわいいねー、陸人。」と笑顔で話しかけてくる。
「りくと…?誰? 俺は一体…?」と思いながらも、その日は眠気が強くそのまま眠ってしまったが、翌朝起きて鏡の前に立ったとき、自分の姿に愕然とした。
3歳児が鏡の前にいる。顔も全く自分とは違う。
試しに右手をあげると、鏡に映る3歳児も全く同じ動きをした。
「どういうこと?…あの時、車にはねられて俺は死んだのか?」
3歳児には時間がたくさんあったので、ゆっくりこの状況について考える事ができた。
「信じがたいが、これが輪廻転生ってやつなのか。」
でも、どうしても納得いかない点がある。
「輪廻転生だとしても、生まれ変わる際に前の記憶は消去してくれないのか?こういうものなのか?
それとも転生中になんらかの異常が発生して、こういう状態になってるのか?」
陸人は考えごとが決して声に出ないよう、細心の注意を払った。
さすがに3歳児のこんな考えを母親に聞かせる訳にはいかない。
会社に出勤しなくてよいので、1日が異常に長く感じた。
母親(後に奈緒という名前だとわかった)と、ほぼ1日中一緒に行動しなければならなかった。
家事や買い物について行ったりすることは全く問題なかったが、一緒に風呂に入る時など、数日は目のやり場に困ったが、「これから俺の母親になる人なんだ」と何度も自分に言い聞かせてるうちに、徐々に自然に思えるようになってきた。
父親(名前は寛之だとわかった:以降は便宜上パパとする)ママも、すごく気さくで、2人とも優しかったのがせめてもの救いだった。
しかし、両親が年下(※魂の年齢上)というのも、もの凄く不思議な気分だった。
たまにパパが仕事での悩みをママに打ち明けていていた。
そういう経験は自分の若い頃(※前世)にもしていたので、パパに対処法をアドバイスしてあげたかったが、そんな事できるはずもなかった。
ママが見せてくれるネットテレビの子供向けチャンネル(これがなかなかに苦痛な時間だった)を見ながら日々を過ごしていたが、ママが家事で疲れて居眠りしてる隙に、リモコンで好きなヨーロッパのサッカーリーグや音楽チャンネルなどに変えていた。
寝る前に読み聞かせてくれる絵本は、なかなか興味深い内容だった。
絵本という存在が、こんなに「人生の教訓」に溢れた文章だったとは驚きでしかなかった。
「ヨシタケ シンスケ」さんの絵本なんて、今までの好きな本の上位に食い込んでくるくらいだ。
昼間自分からヨシタケさんの絵本を開いて読んでいたら、ママは絵本を買い足してくれた。
5歳の誕生日にパパが補助輪付きの自転車をプレゼントしてくれた。
パパに「この横のやつ要らない」とアピールすると、怪訝な顔をしていたが、実際に補助輪なしの自転車を乗りこなすと、物凄く驚いていた。
補助輪はかえって邪魔なのだ。これで移動できる範囲が大幅に広がった。
この街は数年前の時点での情報だが、だいたい地図情報は頭に入っている。
幼稚園の友達らと仲良くしないことを、パパとママは心配していたようだが、話は当然合わないし、下手するとジャイアンのようなマウントをとってくるやつもいる。
友達作りは小学校からでいい。今は自転車をのりまわして、好きな古本屋や中古レコード屋を観にいっていた。
店員さんは普通に子供が店に来てくれたことを喜んでくれてたので、特に怪しまれず日々を謳歌していた。
来年から小学生となった年の6月、家族みんなと祖父・祖母みんなでランドセルを買いにデパートへ向かった。
「もう来年の買うの?」と陸人は思ったが、売り場の三分の一は既に売り切れていた。これだけ少子化といわれながらも、皆の準備は早いようだ。
「陸人、好きなデザインの選んでいいよ。」
祖母は笑顔だった。孫に大事なアイテムをプレゼントできる事が自分の悦びでもあるらしい。
カラーバリエーションも信じられない程多いし、値段の良いものはシルエットや軽さも素晴らしかったが、とても小学生の鞄の値段と思えない価格だった。
陸人は真ん中くらいの価格帯で、キャメルブラウンの自分好みのを見つけて祖母にお願いした。軽いし、設計がとても実用性のある使い勝手の良さそうな鞄だった。
生前の保険屋時代、鞄や靴にはかなり気を配っていたが、この商品のコストパフォーマンスはかなり良い。
「友達100人できるかな?」
1回目の人生の子供の頃にはそういう歌があったが、正直本音で喋れる友達は人生で数人としか巡り合わない事を経験上知っている。
そんな陸人が今日、小学校の入学式を迎えた。
「せっかくだから、2度目の小学生ライフ。思いっきり楽しんでやる。」
陸人は桜散る中、両親の間に挟まれて校門前で記念撮影を終え、モチベーション高く小学校での生活をスタートさせた。
②へ続く
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