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「あのとき、何を見ましたか」
「いつ」
「大男さまが来店したときです」
「お前には何が見えた」
「ひかり、何かがすり抜けて消えました」
「何色だった?」
「青」
「それが答えだよ」
女性がお手洗いに、とお願いされたとき。
確かに見たふわりと去る何か。
答えを瑚灯は知っている様子で、微笑んだ。
完璧な表情に茉莉花は、目を細める。
『食えねぇ野郎だな。こんなやつ無視しろよ、うっぜぇ』
また内の声に茉莉花は頭が痛くなる。
人様の恩人になんて口の利き方を。もう少し優しい言い方を出来ないのか。
面倒な己の体質の原因に文句をこぼせば、内で嘲笑う声が脳に直接響く。
『僕はこいつが嫌いなんだよ』
返事はそこで終わる。
全く、と茉莉花は内の声を無視して、一つの部屋の前で立ち止まった。
すると中からかたん、と何かが動く音と気配がした。
「今なにかきこえました?」
「いや、聞こえねぇな」
「そうですか……起きたら妖怪さんにも伝えなければなりませんね」
「そうさな、まぁしばらくは無理だろうなぁ。彼女もだが、あのあやかし随分とご立腹だ。量は適量にしろってな」
「毒の適量ですか」
毒に適量もあるのか。毒として――傷つけるつもりで扱うならば、そんなのありはしない。
あって、たまるものか。
「とりあえずお前はあやかしのご機嫌とりに行ってくれ、なおるまで帰ってこなくていいぞ。台所で騒いでくれ」
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