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雪のような白い肌に、赤い提灯の色がうつる。小首をかしげれば、烏の濡れ羽色の髪が頬にかかった。朱と橙色の彼岸花のピアスが、耳元でしゃらりと揺れて煌めく。
皆が足を止めて見惚れ、感嘆の声があがる。
そして吸い込まれるように『狐花』に入っていった。なんという吸引力。
「せっかく外に出たんだ。ちょいと手伝いしなきゃ叱られちまう」
ふふ、と紅色の唇が弧を描き、熱っぽい吐息をこぼす瑚灯に、頷いた。
誰が怒るのか。花街にある店のほとんどが、瑚灯が経営しているのに。
茉莉花の無駄な思考の間にも客は途切れず入っていく。蟻の行列のごとく続々と。
(効果抜群だ。今日も大繁盛間違いなしだな)
すごすごと裏口へと向かう。
従業員専用入り口は、少し離れた場所だ。急がないと、本気で怒られてしまう。いや怒られるだけならまだいい、芍薬姉の過保護が発動したらえらい目に合う。下手したら外に出さないと言い出しかねない。
どうかそうなりませんように、祈りながら支度を急いだ。大忙しの狐花での仕事の始まりである。
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