1-1 招かざる客

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 大男の不躾(ぶしつけ)な視線が舐めるように、全身を検分する。品定めして下卑(げび)た笑いで茉莉花を見下した。 「そりゃそうだ。貴様がハナメなんぞ、この店の程度がしれる」  ハナメ――。  茉莉花のような下働きではなく、来店客を相手する表舞台の主役の役職名だ。  とんでもない美女美男、教養もあり芸も達者な優秀なモノだけがなれる花形。  茉莉花のような平凡以下では務まらない。 (私なら客との会話一分保たないぞ)  自慢ではないが己の顔は鉄で出来ているのか、一切表情が動かない。  笑っているつもりだったが、同僚に「茉莉花、お前、無表情で何考えてるかわかんないし不気味なんだけど」と冷たい目で頬を抓まれた。失礼な、腹抱えるレベルですって伝えると(つい)には哀れみの目になった。 「……ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。もしよければ」 「いいや、お前だ。粗相をした本人が責任を取れ」 (してない)  いや粗相だったのか。自信がしぼんでいく、ここまで強気に出られると、何が正しいのか曖昧になる。 (いやいや、弱気になるな)
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