68人が本棚に入れています
本棚に追加
落ち着け。いくら不器用で、することなすこと失敗に終わる自分でも、今はまだ大きなミスはない。
「申し訳ごさいません。ただの下働きがハナメの役につくことは」
「さっさと来いッそこで」
ばっと振り上げられる手に、小さな悲鳴が聞こえた。
本当に話を遮ってばかりだな。
(だけど、まぁこれは良い流れかもしれない。この客を入れたらハナメが大変な目に会うかもしれないから)
殴られたら出禁コースに入りやすい。
歯を食いしばり、じっと迎え撃つように見据える。
が。
「――おいおい、花街での暴力は一切禁じられてるんだがな」
ぱしん、と茉莉花の胴ほどある腕を軽々と受け止める影。
呆れたように、だが何処までも余裕と艶やかさだけは失わない姿。ふわりと揺れた髪に、着物に焚きしめられた香りが、茉莉花を守った。
まるで見ていたかのような、ナイスタイミングってやつだ。彼はいつだって、ここぞというときに頼りになり、必ず来てくれる。彼の背に庇われた茉莉花は、客に気取られないよう、ひっそりと息をついた。
彼が来た以上、万事上手くいく。艶やかに、たおやかに、まるで舞いでもするかのような優雅さで圧倒するだろう。
最初のコメントを投稿しよう!