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1-2 枯れかけた花
それにしても、いつの間に店の中へ入ってきたのか。神出鬼没なお方である。
ちらりと見ればやはり顔には、まるで誘うかのような笑みが張り付いていた。
いつもと違うのは、目が、一切の感情を断ち切っている。鋭利な刃物のような眼光、切先が迷いなく大男へと突きつけていた。
それは抜き身の刀を首筋に当てているような、緊迫感に息すら制限される。
「旦那。うちの大事な従業員に何するつもりだった? あやかしだからって人間相手に好き勝手に出来ると思われちゃあ、かなわねぇな」
「な、あッ! あ、なたさまは、なぜ、こんな下働きを庇って……ッ」
瑚灯を知っているのだろう。瑚灯を知らぬものなど、花送町にはいない。
途端に狼狽え始めた大男に、瑚灯が鼻で笑った。いつの間にか持っていた扇子をくるりと回し、とんとんと肩を叩いた。
「ここでの遊び方も、学び方も知らねぇ野暮なやつはお断りだ。恥かきたくなきゃ、とっとと帰んな」
丸太以上の腕を軽く振り払うと、啖呵を切るように、よく通る声が響いた。
女のような見目からは、想像できぬ物言いだ。
羨望と、かすかな熱を孕んだ瞳がいくつも周りから向けられる。いつものことながら、老若男女全て魅了していく。あっぱれである。
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