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(また、迷惑をかけてしまったな)
拾われた恩義。必ずお役に立つと心を決めたが、どうにもうまくいかない。
庇われたまま、沈黙が落ちた。
おそらく瑚灯の気迫に押されてしまったのだろう。
逆上しないのは正しい判断だ、案外悪い客ではないのかもしれない。
しばらくして大男は、ぼそりと「すんません」と謝った。
次いで媚びるように下手に出て、へへ、と笑う声。
「すいやせん、本当に。待ち遠しさあまりに我を忘れて、悪気はなくて」
「悪気なく、女を殴ろうってか?」
「いえいえ滅相もないっ! そんな、ほんと、いえね、実はですね、急いでいたのは理由があるんですよ」
瑚灯が紫水晶の瞳で見定めるように、大男を眺めた。感情を排除した無機質な冷たさ。しばらくして、ついっと茉莉花に視線を移す。
茉莉花は瑚灯の求めに答えるため、己自身で情報を整理する。
大男は短気なあやかしだ。
ハナメへの危害の可能性から入店は拒否するべきかもしれない。
が、その男の陰に隠れるように、ひっそり佇む女性が気になった。
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