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「何か特別な品をご所望でしたら、教えていただけると」
「今日は祝いなんだ! 折角だからコレの好物をね、食べさせてあげようと思ってな」
大男がぐいっとひっぱり、隣の不健康そうな女性を前に出した。
コレ、という発言に瑚灯がピクリと眉を動かした。人間を乱雑に扱われるのを嫌う彼からすれば、今の発言と強引な手の引き方に思うところがあるのだろう。
何か言いたげだったが、特に言及しないで、ただ流し目で店の入り口を見る。
つられて茉莉花も向ければ、ふわりと何かが風に乗って外へとさらわれていく。
「聞いているのかね」
「……はい。かしこまりました」
茉莉花は意識を、大男に戻す。客が望んだのは団子であった。
この町の縁起物である。何処でも手に入るが、わざわざ高級店である狐花を選んだのが、こだわりを感じる。何かしらのお祝いなのかもしれない。
しっかり味についても聞いてから、他の要望も確認する。
「ご指名のハナメはいますか」
「構わん。誰でもいい」
本気で食事目当てなのかもしれない。ハナメは空いていて、慣れたものを呼ぶか。
「あの、も、申し訳ございません。わたくし、お手洗いに」
か細い声を拾い、茉莉花はハナメ選びを中断する。
不健康そうな女性は、間違いなく人間で大男の機嫌を損なわぬよう、大人しくしており、おどおどしている。
目は合わない。挙動不審である。
「おいおい、そんなもの我慢しなさい。ソイツも忙しいだろう」
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