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(あのあやかしさん――大男さまとは、どういう関係なのですか、なんて。首を突っ込みすぎか)
誰だって触れられたくない部分は持つ。
気になるのを無視できない質だが、店の従業員として大人しく黙るのが正しいはずだ。
こほんと咳払いをして、女性を立ち上がらせると安心させるように手を握る。
表情が動かない自分では力不足かもしれないが、少しでも不安を和らげたい。
「だから今宵は、気兼ねなく楽しんでください。もしハナメに人間がいた方が良いなら、手配いたします」
「いえ、いいえ。あの、団子は」
「きちんと用意いたします」
意味を込めて頷けば、女性は俯いてしまった。
やはり伝わらなかった、悔しさが胸を締め付けるのに顔は動いてくれない。わかりやすい言葉で伝えられたら良いが、聞かれてしまうと大変なことになる。
(ごめんなさい)
一つの謝罪を落とせば、女性は気丈に笑って「行きましょう」と前へ進んでいった。
その背中が、女性がまぶしくて、思わず目を細めて「はい」と頷くしか出来なかった。
茉莉花は送り届けてから、厨房に好みの味付けなどの報告のち、出来上がった品を運んだ。
美味しそうな食事にお腹が鳴るのを耐えて、そっと廊下に出た。
最後、女性と目があった気がした。
だが届けて数秒、茉莉花が立ち去る瞬間に女性が悲鳴を上げてのたうち回った。
あまりの苦しみように、男手が必要だと下働きが何人も入り、女性を担ぎ上げると空いた部屋へと連れて行く。
そうして食事を運んだ茉莉花は、大男に犯人扱いをされる事態へと発展したのである。
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