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0.花送町の花街
遠くの方にある関門が夕暮れで赤く染まっている。
この町に似合う色が広がって、茉莉花の瞳に入り込む。
昼と夜の間、不安定で寂しい時間を名残惜しいのか、住人の歩みはゆっくりだ。ふわりと夕餉の美味しそうな匂いを、風が運ぶ。
「茉莉花ちゃん、ほい。出来たよ」
聞き慣れた花屋のおじ様の声に、無理矢理差し出されたモノへと視線を戻した。
注文通りの花が、花束にされ美しく咲いていた。
今日は彼岸花が良い、と店の内装担当から注文があった。
一般的には望ましくない花らしいが、ここでは町の象徴でもあり大切にされている。嫌な顔どころか喜ばれる花だ。
茉莉花も好きな花の一つである。
「ありがとうございます。こちらで足りますか」
「ああ。もらいすぎなくらいさ」
優しいおじ様に、黒い手袋の上から花束を受け取る。
ストールがずり落ちぬよう引き上げて、もう一度頭を下げてから歩き出した。
「茉莉花ちゃん、今日はお花だけかい? 美味しい果物があるよ」
「茉莉花ちゃんや、そろそろ食器の買い換えはいかが? 良い品が入ったんだ」
市場が活気づく。市とこれから帰る花街は、夜が本番だ。
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