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「……いいえ店主さま、それはお断りします」
瑚灯の形の良い眉が、ぴくりと動く。
唇に弧を描きながら、茉莉花の真意を読み取ろうとする。
茉莉花はより一層、大きな声で店主たる瑚灯へ、願い出た。
「食中毒なんて怒られる程度では済みません。ただの下働きの謝罪では怒りは収まらないでしょう。ここは店主さまにお願いいたします」
「……茉莉花」
「はい」
咎めるようで、そこにあるのは心配。
暖かな音が愛おしくて仕方ない気持ちを、瑚灯は見透かしているのだろうか。それとも、知らないのか。
茉莉花にとって、重要ではない。
頭を下げて再度、乞うた。
「お願いします」
「……頑固な妹分を持つと兄貴は大変だ」
瑚灯は、茉莉花を拾ったときからずっと「妹分」として扱ってくれる。家族として、接してくれる。
それが、取り戻した、たった一つの記憶の欠片と重なって嬉しくてたまらない。
安心が身体中に満ちて、何も恐れることはないのだと勇気が出るのだ。
「よろしくお願いしますね。私は部屋の掃除ついでに、他のお客様に説明してきます」
「ちょっとまちな、これ、忘れ物。あと助手にも付き合わせろ、男手はあったほうがいい。お前じゃあ、ちょいと舐められちまう」
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