1-5 花々の協力

3/4

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「……いいえ店主さま、それはお断りします」  瑚灯の形の良い眉が、ぴくりと動く。  唇に弧を描きながら、茉莉花の真意を読み取ろうとする。    茉莉花はより一層、大きな声で店主たる瑚灯へ、願い出た。 「食中毒なんて怒られる程度では済みません。ただの下働きの謝罪では怒りは収まらないでしょう。ここは店主さまにお願いいたします」 「……茉莉花」 「はい」  咎めるようで、そこにあるのは心配。  暖かな音が愛おしくて仕方ない気持ちを、瑚灯は見透かしているのだろうか。それとも、知らないのか。  茉莉花にとって、重要ではない。  頭を下げて再度、乞うた。 「お願いします」 「……頑固な妹分を持つと兄貴は大変だ」  瑚灯は、茉莉花を拾ったときからずっと「妹分」として扱ってくれる。家族として、接してくれる。  それが、取り戻した、たった一つの記憶の欠片と重なって嬉しくてたまらない。  安心が身体中に満ちて、何も恐れることはないのだと勇気が出るのだ。 「よろしくお願いしますね。私は部屋の掃除ついでに、他のお客様に説明してきます」 「ちょっとまちな、これ、忘れ物。あと助手にも付き合わせろ、男手はあったほうがいい。お前じゃあ、ちょいと舐められちまう」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加