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ゆらりと、橙色の彼岸花――いや、彼岸花の形をした狐火が瑚灯の手の上で咲く。
風にふかれるように、ゆったりと茉莉花の元へ来て、道を照らす。
幻想的な美しい花、茉莉花が見るのは二度目である。
これの役目は二通りあり、一つは危険から守ってくれることである。
やはり心配性というか、少し過保護気味だ。
妹分と思っているせいなのか、ずいぶんと恩人は甘い。
「はぁ、ありがとうございます」
「その危機感のなさ、どうにかしねぇとな」
半目で睨む瑚灯に、目をそらした。危機感はある、つもりなのだが、どうも他人からすると無鉄砲らしい。
イノシシかよ、と同僚に冷たい目で見下ろされたのを思い出す。
イノシシほど活発でも元気タイプでもないのだが。
とりあえず何を言っても言い訳になるので、ぺこりと頭を下げた。
「すみません」
「台所までの道は封鎖しておくから、そっちも好きだけ騒ぎな」
「了解です」
「茉莉花、気をつけな」
「はい」
彼岸花の炎に導かれるよう、歩み始める。
お手洗いを過ぎて右の曲がるとき、ふと後ろを見た。
瑚灯が芍薬姉と、もう一人のハナメ『瑠璃唐』が厨房に入るところだった。
ちょうど、こちらに顔を向けた芍薬姉と瑠璃唐が手を振り、送り出してくれる。芍薬姉は微笑んで、瑠璃唐は呆れたような顔で。
三ヶ月で見慣れた、茉莉花の居場所に咲く花だ。
これからの仕事、流れをもう一度頭の中で復習して気合いを入れ直して前を向く。
廊下が終わり、裏口へと出て鍵を閉めた。
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