70人が本棚に入れています
本棚に追加
「……お願いします」
「そうですか。では、まず初めから。おかしいと思ったのは」
推理にもならないお粗末な考えを、茉莉花はつらつらと語り始めた。
「来店時。大男さまと貴女さまの関係です。恋人とは明らかに違い、主従関係……いいえ隷属、服従でしょうか」
アレ、だの、手首を引っ張る動作など。
愛など感じない扱いに、女性のやつれ具合。
「そして腕の痣、あれは縛られた跡ですね?」
「……はい」
お手洗いのときに覗いた、腕の赤黒い痣。
あんなもの普通はつかないだろう。
「それに加えて、彼岸花の団子を貴女の好物だと大男さまは伝えました。そして死なない程度で、苦しむ毒を入れるように指示しました。貴女は聞いていたのに反論すらしない。それは慣れている、と考えられます」
想像ではあるが、毒に反応しなかった。気力すら奪われていたようだった。死人のように諦めて受け入れている。
それらをまとめると、一つだけ浮かぶのは。
「貴女は、日常的に虐待を受けている」
沈黙は正解、らしい。女性からすすり泣きが聞こえてきた。
思わず黒い手袋に包んだ己の手を、彼女へと向ける。
遠慮がちに触れれば、それを優しく握り返してくれる。導くように連れて行く、
泣き顔を見られたくないのだろうから振り返りはしなかった。
「毎日、どくを、たべさせられました」
抑揚ない声だ。
死んでいる、と茉莉花は思った。
最初のコメントを投稿しよう!