72人が本棚に入れています
本棚に追加
「まいにち、まいにち。どくを、口に押し込められ、吐いて苦しむ姿を楽しげに見つめて。縛られて丸一日放置されて」
人権、などほど遠い。それ以下、家畜ではない、命だと思っていない。むごい日々だった、と引き攣った嗤いをこぼす。
何故か聞き覚えがある嗤いだった。
嗤うしかないから。
そうしかないから、勝手に顔が動くのだろうな。と想像が出来てしまう。
「……ここで身売りされると聞いたとき、救われたと思いました」
「何故ですか」
「ことうさま、というあやかしは少なくとも優しそうでした。あなたも、ハナメと呼ばれる方も、アレよりずっと、ずっと」
「身売りでもですか」
「あ、は。あはははッ、今よりマシですもの」
壊れていく彼女に唇をかみしめて、何とかどろり、身体が崩れていく彼女を押しとどめるように口を挟んだ。
「大男さまは、ご機嫌でしたね。貴女の好物……実際は違うでしょうが。それを高級店で食べようとする程度には」
「彼岸花の団子は、アレの好物ですよ。毒団子を好んでいるのです」
(最悪だな)
嘘だろうと思っていたが、大男の醜悪さが露見して暴言を吐きつけたくなる。
目の前にいないのが惜しい。
「初めて入る高い店に、食べに来た理由は祝いでしたね」
真実は見えている。
もうピースは集まっている。だから口に出すだけだ、というのに。息苦しい。
「大男は花街に来たことがないとおっしゃってましたね。この町で花街に入ったことがないのは大変珍しいのですよ」
最初のコメントを投稿しよう!