0.花送町の花街

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 豪奢(ごうしゃ)な見た目、涼しげで清らかな川に朱色の橋。いつ眺めても、見事の一言につきる。これほど美しい建物を、他に知らない。  茉莉花の感性では(お金が湯水のように使われてそう)ぐらいの感想しか出ないが。  思わず立ち止まっていると、ふと、店前で気だるげな男を見つけて逃げたくなった。  男は柱に背を預けて、煙管(キセル)をくわえる。  そして、赤い唇からふぅと紫煙(しえん)を吐き出す様は老若男女の誰もが見惚れ、呼吸すら忘れさせるほど艶やかだ。むせかえる色香が全てを惑わせる。  腰より長い、絹のような黒髪を払い、紫水晶の瞳がつい、と流す。そのあだっぽさに、立っているだけで人が寄ってくる。  客寄せだ。  この世のものとは思えぬ、女と見紛う美丈夫は、己の美貌(びぼう)を最大限に利用する。  彼が、茉莉花の恩人。人そっくりに化ける九尾、狐のあやかしである。
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