河川敷は2人の居場所

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 大学を卒業して地元へ帰って来た。休日に懐かしい町並みの中をドライブしていて向かった先は河川敷だ。いまでも忘れていない思い出。 「(こう)ちゃんは何年生? 」  峰山のおばちゃんは、僕にとっても優しくて微笑みながら話しを聴いてくれる、唯一の大人だったから。  5年生になってクラス替え。せっかくできた仲間と離れた。そこからずっとつまらなかった。だから河川敷に居場所を作った。  峰山のおばちゃんは近くの畑に良くいた。 「お帰り。おなかすいているでしょ」  河川敷の橋の下でおやつ。畑で収穫したトウモロコシを一緒に食べたり、お菓子を食べて話しをするだけで嬉しかった。トマトを丸かじりしている僕を微笑みながら見てくれた。 「あっ、峰山のおばちゃん」  腰がちょっとだけ曲がってしまっている。就活でこっちに来た事があったけれど逢えなかった。ようやく久しぶりに逢えた。 「峰山さん、光樹(こうじゅ)です」  近くで声をかけると峰山のおばあちゃんが、ゆっくりと僕を確かめるように見た。 「光ちゃんかい? 光ちゃん大きくなって。いやー立派になったねぇ。良かったよぉ」  年齢を重ねた峰山のおばちゃんは、おばあちゃんになった。僕も4月から社会人だ。年月を経て再会出来た。初めて会ってから12年。 「元気だったかい? 」 「はい。峰山さんもお元気そうで」  僕が言うと笑いながら言った。 「おばあちゃんで良いよ。もう80近いんだから。今日はどうしたの」 「大学卒業して、こっちに帰って来たんです。懐かしくて気づいたら河川敷へ」  おばあちゃんが頷きながら河川敷を見る。 「光ちゃんのような居場所を探している子がいるよ。私と病院で出会って。光ちゃんの事を話したら来るようになって」 「病院って、おばあちゃん具合悪いの? 」  おばあちゃんの表情に影が出来た。 「もう大丈夫だよ。その子は初奈ちゃんって子でね。光ちゃんに会いたいって言っていたわ。最初は話を聴いてあげるだけでいいの」  僕の居場所の後継者の初奈ちゃんは、いきなりビクッとして立ち上がった。 「あっ座って。ごめんなさい驚かせて。おばあちゃんから話してもらったと思うけれど、僕が中苫光樹(なかとまこうじゅ)。光ちゃんです」  初奈ちゃんは僕にしがみついてきた。初対面子にいきなりしがみつかれて動けず。 「初奈ちゃん初めまして」 「光ちゃん初めまして。私は西渕初奈(にしぶちはつな)。小学5年生の10歳」  そう言って、しがみついたまま僕を見る目にみるみる涙が浮かんで行く。 「どうした? 一緒に座ろうか」  コクンと頷く初奈ちゃん。 「光ちゃんが小学生の時に、此処に来たのはどうしてなの? 」  クリッとした目で僕を見てくる。弟しかいない僕は、こんな妹がいたらなぁと思った。  初奈ちゃんに、クラス替えをして、せっかく出来た仲間が出来ていたのに離れてしまった事、そこからつまらなくなって此処に来て、おばあちゃんと話していたと教えた。畑からおばあちゃんが今も見守ってくれている。 「そっか。私は1人が大好きなの。先生やクラスの子と話すけど苦手。家にいてもパパとママは忙しくしているし。此処はタンポポがきれいだし、おばあちゃんいてくれるし」  2人でタンポポを摘んで、ブレスレットや首飾りを作った。 「早くGWになると良いね。そしたら、おばあちゃんと光ちゃんと私で遊びに行こうね」 「いいねぇ。初奈ちゃんは何処に行きたい? 」 「お花畑が良いなぁ。おばあちゃん、お花博士なんだよ。色々と教えてくれるよ」 「おばあちゃんが呼んでる」  2人で畑へ行く。 「すぐ仲良くなって良かったねえ」  おばあちゃんの家は徒歩約5分。でも僕が車で来ているので2人を乗せて送って行った。  GWに僕の車で、おばあちゃんと初奈ちゃんと公園へ出掛けた。初奈ちゃんの母親は、僕が送って行く日も迎えに行く日も軽く頭を下げるだけ。 「いっつもそう。怒るかバタバタしてて。宜しくも言えないの光ちゃんに」  頬をふくらませて歩く初奈ちゃんに、おばあちゃんは目を細めながら言った。 「お母さんも一杯一杯なんだろうねぇ。でも初奈ちゃんが生活出来ているのはのは両親のおかげ。元気な初奈ちゃんと出逢えたのも両親のおかげ」 「でもさぁ……」  おばあちゃんはニコッとして初奈ちゃんと手をつないだ。そのまま手を振って歩き続ける2人。 「パパとママに訊いたら? どうして怒っているかって。初奈ちゃんの気持ちを言ったら良いよ」  初奈ちゃんは、おばあちゃんと僕を交互に見ながら言った。 「だね。怒ったりする理由なんて訊いた事なかった。わぁあそこ行こうよ」  おばあちゃんと顔を見合わせて笑った。 「チューリップをバックに写真撮ろうよ」  おばあちゃんも僕も初奈ちゃんも笑顔でいられた。初奈ちゃんと公園のブランコに乗った後、芝生でおばあちゃんの手製のお弁当をいただいた。新入社員で慌ただしく落ち込んでいた僕はリフレッシュ出来た時間だった。  7月に入って、おばあちゃんが体調を崩してしまい天に召された。おばあちゃんの娘さんから、僕と初奈ちゃんで畑を守ってほしいと手紙を書いていた事を知らされた。  河川敷で2人で逢えば畑に行って大泣き。 「あっ光ちゃん、おばあちゃんが呼んでる」  数日後の事だった。初奈ちゃんに言われて、嘘だろと思いながら畑を見たらおばあちゃんに呼ばれた。 「光ちゃんと初奈ちゃんに、畑の事を教えていなかったね」  おばあちゃんにしがみつき、初奈ちゃんが泣き出した。僕は草を取っているフリをして涙をこらえていた。               (了)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!