悪役令嬢の決意

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悪役令嬢の決意

 魔物たちに、人間たちに、どんな戦う理由があっても、私にはどうでもいいの。  皆それぞれに言い分があるのなら、私にだって言い分があります。  無数に存在する言い分の中、通せるものは……力ある者の言葉でしかないのです。  分かりますか。  力ある者の言葉こそ、全てなのです。  …………  …………  ありがとう。  お茶とクッキー、とても美味しかったわ。  え?  立ち上がってどこにいくのか?  決まっているでしょう?  魔王を倒しに行くのよ。  レクトにも、明日は晴れると言いましたからね。村の皆さんも、そろそろ太陽が見たいのではなくて?  …………  …………  私は……この村が魔王によって滅ぼされるのが許せないのです。  私を見守り、優しさを教えてくれた人々がいるこの村だけは……守りたいのです。  一度は、この村とともに私も滅ぼされても良いと思いました。  でも、悪役令嬢として生きようと決めたとき、許せないと思ったのです。  私は、この村の皆さんに――そしてあなたに、生きて欲しいと思っている。  平和な世の中で、笑顔を浮かべながら生きて欲しいと、強く……強く願っていると、気付いてしまったのです。  人間や魔王が掲げる戦う理由と比べると、利己的で自分勝手な理由でしょう。  ですが、何の問題があるのでしょう?  私は、悪役令嬢。  好き勝手させて頂きますわ。  魔物たちは、人間たちに土地を奪われた被害者だそうですが、そんなこと、私には関係ございません。  その主張を魔王や魔物たちが力で押し通そうとするのなら、私は大切なものを守りたいという主張を通すため、力を振るうだけです。  ……ええ、そうね。  私は以前、魔物に負けています。そんな私が魔王に挑んだところで、返り討ちにされ、レイカ様と同じ運命を辿るだけでしょう。  でも私が、何も対策をしていないと思って?  私が摘み取り、毎日食べていたティアの実とコリンの花。  あの二つには、魔法使いの魔力の回復と魔力量を増やす効果がある、大変希少性のあるものなのです。普通の人にとっては毒なのですけれど。  大量に自生しているのを見つけたとき、驚きましたわ。  魔法使いであっても食べるのが辛いそれを、あなたが食べやすい方法を考えてくださったおかげで、二年前と比べものにならないほどの力を得たのです。  あなたたちのと毎日のティータイムが、私を強くしてくれていたのですよ。  今、この瞬間も――  だから感謝しています、ルージャン。  あなたのお陰で私は、本当に大切なものを守れる。  昔からの決まりではなく、  誰かに命令されたからでもなく、  望まれたからではなく、  自分の意思で、守りたいもののために力を尽くせる。  ……ああ、自分の思い通りに行動するって、これほどまでにワクワクすることなのですね。  私、悪役令嬢になれて本当に良かったですわ。  では、レクトに伝えてください。  明日からずっと、青空の下で元気に遊んでくださいと。  村の人々には、私を静かに見守ってくださった感謝を。  そしてルージャン、あなたには――あら、何故耳を塞いでいるのかしら?  そんな言葉、聞きたくない?  ふふっ……仕方ありませんわね。  では私がここに戻って来たら、そのときは……耳を塞がずに聞いてくださいね。  それではルージャン。  ――ごきげんよう。
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