大魔法使いは悪役令嬢を想ってお茶を飲む

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大魔法使いは悪役令嬢を想ってお茶を飲む

 ああ、今日も良い天気だ。  太陽が、眩しい。  平和だ。  とっても、平和、だ。  この景色を見たかったんじゃないのか?  なのにどうしてあなたは――  * "それではルージャン。ごきげんよう”  その言葉とともに彼女が僕の前から姿を消したあの日、魔王は倒された。  だが、彼女は戻ってこなかった。  彼女がいつ戻ってきてもいいように、僕は毎日、ティアの実のクッキーとコリンの花茶を用意していた。  だが、彼女は戻ってこなかった。  戻ってきたら、僕に伝えたいことがあると言っていた。  戻ってきたら、僕も彼女に伝えたいことがあった。  だが、彼女は戻ってこなかった。  後悔した。  あのとき、彼女の言葉を聞いてしまえば、二度と会えなくなる気がし拒絶した。  彼女の言葉を聞くべきだった。  僕は彼女に伝えるべき、だった。  戻ってこないのならば――    魔王を倒したのが彼女であることは、誰も知らない。  僕も、彼女の功績だと声をあげるつもりはない。  きっとそれは、彼女が望むことではないから。  …………  …………  ああ、レクト、ありがとう。  うん、今日も貰うよ。ティアの実のクッキーとコリンの花茶を。  僕の体にも、すっかりティアの実とコリンの花が馴染んだよ。まあ十年間食べ続ければ、さすがに慣れるよ。  始めの頃は、食べる度に随分苦しんで、お前にも心配をかけたけれど。  でも……お陰で僕も今や世界唯一の大魔法使い様だ。ここまで辿り着くのは大変だったけどね。  ああ、うん。彼女が残した魔法書は全て極めたよ。  今の僕なら――この世界で最高の魔力量をもつ僕ならば、死者も蘇らせられるし、時間も超えられる。  彼女が、この村が滅ぼされることを許さなかったように、誰よりも気高く、心優しい彼女が犠牲となることを、僕は決して許さない。  え?  それらは禁忌じゃなかったって?  ああ、そうだけど僕には、  ど う で も い い こ と だ。    ――じゃあ、行ってくるよ。  彼女を迎えに。  そして聞くんだ。  彼女の言葉を。  そして今度はちゃんと伝えるよ。  あの日伝えられなかった  僕の想いを――  <了>
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