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《どうだ、人間の醜い部分っていうのはなかなか心に堪えるもんだろ?》
暗闇で、僕は目の前に置かれた水槽頭の中にいるメメとふたたび対峙していた。
あれがきみの言っていた見たくもないものなの?
《そのうちの一つではあるな。見たくないものの代表というか、ありきたりなもんさ》
どうしてあんな考えかたができるんだろう? それにあんな考えを持ってるのに、どうして関係を絶とうとはしないんだろう? 嫌な相手なら、さっさとそうすればいいのに。
《あのカップルの女のことか?》
僕は頷こうとしたが、肝心の水槽頭は目の前に置かれていたのでできなかった。それでもメメは、僕の意思を汲み取ってくれたようだった。
《いいか。どれだけ文明や社会の仕組みが発達したところで、所詮人間なんざ獣と変わりやしねえ。要するに脳味噌が巨大な仕組みにつながった猿みてえなもんでしかねえのさ。おまけにこの仕組みには集団をまとめる王がいねえ。だから誰だって好き勝手やるし、クソみたいな理由で相手を貶めたりできちまうのさ。おまえは嫌なら離れりゃいいとは言うが、始末の悪いことに結構そいつを楽しんでるんだよ、やつらは》
僕の恋人はどうなんだろう? 自然とそんな疑問がこぼれていた。僕に対して、あんなことを考えてたりしないかな?
《知るもんか。彼女本人じゃないんだ。俺も、おまえも。だがな、わからないってことのほうが本来は正常なことなんだ。それをいまの世の中のやつらは、なんでもかんでもわかった気でいやがる。わかったと思ってることが間違いかどうかなんてのは気にしてないんだ》
メメの言葉は励ましなのか罵りなのかわからなかったので、僕は何も返事ができなかった。
《これからもまだまだきついぜ。まあせいぜい頑張んな》
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