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とある住宅街の一角には、毎日のように奇行を繰り返す老婆が住んでいた。
薄汚れた格好で近所を徘徊しては、通りすがりの人々を支離滅裂な言葉で罵倒する。家の敷地は多種多様のごみで埋め尽くされており、がらくたや中身でぱんぱんのビニール袋がうずたかく山を成していた。いわゆるごみ屋敷だ。
見かねた近隣の住民は役所に対応を求めたが、できるのはせいぜい道路にはみ出したごみを処理することぐらいで、根本的な解決には至っていなかった。
ある深夜、老婆の家の前に二人組がやってきた。彼らは泥酔しており、塀の上から覗くごみを目にしては呂律のまわらない口調でそのにおいや汚さに文句を言った。
それからやおら取り出したのはひとつながりの爆竹だった。それを同じく取り出したライターで点火し、塀の内側へと投げこむ。
《逃げろ!》二人のうち片方が笑いを押し殺しながら言う。
激しく揺れる視界のなか、彼らがあげる笑い声をつんざくように、背後から破裂音が鳴り響く。そのまま五十メートルほどを駆け抜けた二人が足を止めて後ろを振り返る。
すると、それまで薄暗かった住宅街の一部がオレンジ色の光に照らされていた。
《え?》もう一人がそう言ったあと、尾を引くような笑いを漏らす。
その直後、老婆の家の敷地内から火の手があがった。
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