調査

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調査

健児が一通り地元新聞に目を通すと、その視線は優子に向けられた。 「それらしい事件はないな。」と話す健児。 優子は愛子が映った昔の写真、今年届いた年賀状とメモを取り出した。 写真を指差し、「この子が浦田愛子で5年前の写真ね。」 写真にも5年前の日付が記されていた。 その写真は、他県の観光地での一枚だった。 「そしてこれが現住所。」 「今年の年賀状を貰って以降、引っ越したとの連絡は聞いていないから、多分そこで間違いないと思うわ。」 次にメモを取り出し、「小学校の卒業アルバムの住所は福岡市早良区飯倉の一軒家だから、両親はここにいる可能性は高いわ。」 「職場は福岡市天神、昭和通り沿いに近い、昭和ビル2階。」 この手際の良さは健児のサポートをしている内に仕事の基本を覚えたからである。 健児は話を聞きながら、カバンから福岡市の地図帳を取り出し、それぞれに赤いボールペンで印を付けていた。 「自宅から徒歩かチャリでも行けなくはないか。」 健児は地図でそれらを確認をすると、まずは職場に行くことを優子に告げた。 福岡市の地下鉄は、1981年の昭和56年7月に室見~天神間で開業。 その後、1983年昭和58年までに姪浜~博多間が開通していた。 その地下鉄を利用して移動しても良かったが、浦田愛子の実家にも行くつもりなので、探偵事務から少し歩いた駐車場に移動して、白いトヨタのカローラに乗り込んだ。 尾行する際、周りに溶け込みやすいという理由で、この車を使っていた。 「まずは職場に行こう。」 健児がそう言うと優子は「うん」と返事をした。 霊能力と言っても万能ではない、もしかしたら愛子は生きているかも知れない。 ただ彼女の背後に見えた2つの影は、おそらく男女であり、相当に邪悪な波動を感じていた。 特に男性らしきイメージは人間とは思えない禍々しい波動が渦巻いていた。 「あれは本当に人間なのだろうか?」 優子はそれほどまでに警戒心をつのらせていた。 博多駅から天神まで車を走らせると、距離こそは10分程度の距離だが、昼間の混雑は耐え難いくらいにひどかった。 福岡市の都心から都心に移動するので、雨でも降れば30分位かかる事も頭に入れて移動しなくてはいけない。 その分、車の中でお互いの役割を確認する時間もあった。 「店での聞き込みは優子に頼む。」 「出来れば、自宅の電話番号も確認してくれ。」 「最後の出勤日だけは絶対に聞きそびれるな。」 健児がそう優子に確認すると、「大丈夫、分かっているわ」と返事を返した。 昭和通りの交差点で優子を車から降ろして、健児は地下駐車場に車を止めに行って、昭和ビル前で落ち合う約束して別れた。 そして優子はその足で昭和ビルに向かった。
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