池上優子から見た佐々木健児

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池上優子から見た佐々木健児

健児と一緒に歩いていると、時々思う事があったが、この人通りの多いい、天神地下街を歩いていると呆れるほど、健児の鈍さがよく分かった。 身長177センチ、体重70キロ、やや痩せて見えるが、肩幅が広く、逆三角形で引き締まった体をしている。 健児は学生時代から浮いた話は一つもないし、本人もモテた事はないと言っているが、この視線はいったい何なのだろう。 顔立ちは江口洋介、福山雅治でもなければ当然、武田鉄矢でもない。 仕事中の彼の顔の目は鋭いけど、話すとユーモアたっぷりで、皆を和ませたり、笑わせたりもしていた。 その辺は学生時代から変わらない。 中学時代は剣道部で高校でも剣道を続けていた。 高校時代は1年から代表選手で先鋒、中堅、副将、大将と力をつけて、その実力は全国クラスだった。 高校では、彼の隠れファンクラブまであった。 しかし彼は、剣道以外に、母方の父から柔術を幼い頃から叩き込まれていて、剣道はその一環でもあった。 事前に約束や予定がないと、母方の実家で泊まり稽古もしていたし、市民体育館の柔道場で稽古をしていた時期もあった。 それでも弱音を聞いたことはなく、いつも楽しそうな顔をして話している健児が私の知る健児だ。 しかしここまであからさまに女性から視線を送られていても、気づきもしない健児は鋭いのか鈍いのか本当に分からない。 「なんか、腹が立つんですけど。」 だけどあの鋭い顔つきから、笑みを浮かべられるとどうでも良くなってしまう。 つまりイケメンであるし、そして優子は健児に惚れているのである。 刑事という職業、探偵という職業が彼を世間から隔離してくれているのが、優子にとっては幸いしていたが安心は出来ない。 すれ違った女性達が健児の事を振り返り見ている。 優子が思っている以上に健児はイケメンなのではなかろうかと、一抹の不安が過る。 そして、その次に必ずその視線は、優子にも向けられる。 別に手や腕を組んでいる訳では無いが、健児の連れであること位なら、誰でも分かる位置に私がいて、健児も私を見ながら喋りかける。 別に初めての事ではなかったが、ここまで女性の多いい場所を二人で歩いたことはない。 彼女たちから見たら、私達はどんな関係に見えるのだろうか。 優子の女心が時々揺れ動くが、この唐変木が今更変わるわけもないので、堂々と、健児の横をキープして優子は歩いていた。 また健児は、優子の歩幅に合わせ無意識に歩いていた。 傍から見た二人は、お似合いのカップルでまだ25歳前後に見えていた。 誰しも二人を見て、「お似合いのカップル」と羨ましがっていたのである。 それに気が付かない優子もやはり健児と同じく、恋愛には鈍感な女性であった。 それだけに二人を知る人間からしたら実にじれったい仲であったのは言うまでもないだろう。
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