佐々木健児から見た池上優子

1/1
前へ
/62ページ
次へ

佐々木健児から見た池上優子

 先週辺りの話だが、事務員の西島和子から、ストレートにある質問を受けていた。 「所長、池上さんをこのまま行かず後家にさせる気ですか」と手厳しい一言だった。 「私も好きでこんなの事、言ってるんじゃありませんよ。」 「ただ、池上さんが余りにも健気でね。」 実に耳が痛い話だった。 「どうですかジュンブライド」と何故、西島和子が結婚情報誌を持っているのかは不明だったが、下手な詮索は、やぶ蛇に思えた。 心当たりがあるとすれば、2月14日のバレンタインデーではないだろうかと健児は考えていた。 確かに、「3月14日のお返しは何がいいだろうか」と西島和子に聞いていたからだ。 それがまさか、結婚の話になるとは思いもしない健児だったが、痛い所を突かれたのも事実だった。 西島和子に言わせれば、誰が見ても、優子はプロポーズを待っているというではないか。 しかもトドメに、「まさか、女に言わせるつもりですか?」とまで言われて、返す言葉もなかった。 「結婚式場の予約ともなると半年前から準備してもいいくらいなんですよ。」 「大安吉日とも成れば、そこに集中するのは当然ですから、今度のホワイトデーは、思いっきて指輪を買われてはどうですか?」と 西島和子は健児にアドバイスをしていたのだ。 その後、優子が事務所に現れたのだが、物事には順序とゆうものがあると、健児は思っていた。 しかし、考えてみれば隣に優子が居ることは、もう当然の事であり、はたから見れば、恋人か夫婦に見えてもおかしくはない。 いつもそうだが、タイミングが悪い。 さすがに、優子の友達の生死に関わるこの状況では、浮いた話など健児には言い出せないでいた。 「まずはこの事件を解決する。」 恋愛に不器用な健児なりに、これをケジメにしようと考えてもいた。 隣に並ぶ優子の背丈は自分の顎の下辺りで、平均的な女性の身長であると健児は思っている。 とは言え、それは健児の主観であり、正しいかどうかは別問題でもあったが、健児自身は全く気にもしていなかった。 何故なら、優子以外が健児の横を歩く事は殆どなかったからだ。 中学で出会ってから気づけば、健児の横には優子が居た。 それがいつの間にか当然になっていた。 そして健児の目から見ても、優子は実年齢よりも若く見えて、いつも笑顔を絶やさない、そんな優しい女性であった。 結婚から逃げていた訳では無いが、仕事の面でもタイミングを逃していた。 ようやく、経営も人脈も軌道に乗り、優子との事を考えていない訳ではなかった健児だが、当たり前すぎる二人のこの関係が、今日まで続いてしまったというのが健児の実感であった。 だが、互いにもう30という年では、さすがに優子を待たせ過ぎていた事は歪めない事実だった。 そこで3月のホワイトデーに、プロポーズを真剣に考えていた矢先に、この事件が舞い込んできた。 事務所に飛び込んできた時の優子の顔を見て、健児は一瞬だが複雑な思いにかられた。 だが、優子の話の内容がただ事ではなかったので、大きく息を吐き、健児は気持ちを切り替えた。 それだけにこの事件は、きっちりと解決すると決意した健児であった。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加