浦田愛子の実家

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優子の儀式が終わると、浦田愛子の母親に向きを変え語り始めた。 「おばさん、大丈夫です。おじさんはきちんと行くべき場所に迷わずに行かれています。」 そこがどこなのか正確には分からなかったが、浦田愛子の母親はそれは天国であると考えることができた。 そう告げた優子はさらに浦田愛子の母親に近づき、自ら浦田愛子の母親の両手を握りその場に座った。 優子の表情はとても穏やかであり、笑顔が垣間見えた。 先ほどまでこの部屋を支配していた厳かでありながらも、張り詰めたような空気はもうどこにもなかった。 そして「ありがとうね」と浦田愛子の母親は涙を目に浮かべ感謝の言葉を述べた。 そんな浦田愛子の母親に笑顔で優子は言葉を付け加えた。 「この常葉が何を意味するものなのかまでは分かりかねますが、伝言のような言葉が私の頭に残っているので、今からそれをお伝えします」と優子は浦田愛子の母親に告げ、「夏祭り、花火、君に会えて幸せだった」と伝えると、一瞬驚いた顔をした浦田愛子の母親の涙が止まらなくなった。 優子はそれを見て握っていた両手を離し、そっとその様子を見守っていた。 優子自身、この言葉にどんな意味が込められているかまでは分からなかったが、この言葉は二人を繋ぐ大切な言葉であることは、母親の涙で確信していた。 母親が涙する間、傍らに浦田愛子が寄り添っていた。 「大丈夫、お母さん」と声をかけ心配している様子から、この言葉の意味を理解しているのは母親だけであると愛子は思い、母親が落ち着くのを待った。 少しずつ落ち着いた母親は涙を拭いながら「ありがとう、優子ちゃん。確かに主人からの言葉です。本当にありがとう。」と今度は母親が優子の両手を取って感謝の言葉を述べた。 浦田愛子がこの母親の行動が何なのか理解できずにいたのは無理もない。 この話は愛子にさえ話していないことであった。
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