浦田愛子の実家

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一方、健児は車の後部座席に池上優子と浦田幸子を乗せ、中央区天神にある天神署へ車を走らせていた。 天神署へのルートは来た道を戻る単純なものだが、都心部に向かう上り車線のため車の渋滞は避けられなかった。 後部座席では優子が浦田幸子の手を取り励ましている姿がバックミラー越しに見えた。 大きな声ではないので、正確な会話は聞き取れなかったが、優子の「おばさん気をしっかり持ってください」と言う言葉は聞き取れたのでその様に思えた。 誘拐の可能性が無いわけでは無いが、それならば浦田愛子が生きている可能性が高くなる。 また大通りの道なので尾行の可能性も考え後方を時折確認していた健児であったが、それらしい車両は見当たらなかった。 とは言え浦田愛子の実家に何らかの方法で接触しくる可能性もあるが、手続き上親族の届け出は必要だったし、浦田幸子の安全確保のためにも同行して貰う方が効率的だった。 仮に浦田愛子が最悪の結果だとしても、その動機が分からない以上は肉親である浦田幸子に危険が及ぶ可能性も捨てきれなかった。 恋愛のもつれ、金銭トラブル、変質者によるトラブルと色いろあるが、その多くは女性が被害者となる性犯罪、次にひったくり、すり、痴漢に路上強盗、暴行、傷害、脅迫及び詐欺などがある。 成人女性の誘拐となると犯罪率から考えれば、まずは無いと健児は考えていた。 そのうえで連絡が取れない状況を考えると殺人事件の可能性は大きかったが、現在身元不明の遺体が発見された形跡もない。 だとすれば場当たり的な犯行ではなく、浦田愛子を計画的に拉致、監禁して殺害を行ったか、あるいは今まさに行おうとしているのではないかと考えていた。 まだ死体が出てきた訳ではないのであらゆる可能性で生きているのならば、初動捜査の重要性を健児は自身の経験から十分過ぎるほど理解していた。 浦田愛子を生きて連れ戻してあげたいとバックミラー越しに映る浦田愛子の母の姿を見て健児は決意を固めていた。 そして車はようやく天神署へと到着した。
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