夜の天神

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 天神に来た目的は愛子の行方を探すことだが、今分かっていることをシンプルに考えれば、勤務先を出た後に何処かで事件に巻き込まれてと考えられるが、健児にはいくつか腑に落ちない点があった。 昼間に行った美容室は営業時間中なので、まずは空腹になった腹を満たすことを考えていた。 もちろんそれだけが目的ではない。 優子と再度、捜査のすり合わせを行うためでもある。 天神地下街はショッピングには向いているが、食堂街では無い。 地下食堂なら博多駅の方が充実している。 仕事でなければ国体通りに並ぶ屋台で一杯ひっかけたいところだが、そこで捜査の話は出来ない。 適当に食事が出来て話も出来る場所を考えていたら、新天町商店街にある喫茶店を利用することにした。 近くにマクドナルドもあるが、あそこはあふれるほど人がよく並ぶ。 少し古くさいが喫茶と名のつく店の方が静かでいい。 ここのマクドナルドは確か福岡の1号店だったはずだ。 外から見る限り相変わらず閑古鳥とは無縁の様だ。 喫茶店に入ると少し大きめのソファがこの店の特徴だ。 元々喫茶と名の付く店だけあって座り心地は悪くない。 昔は軽い喫茶メニューくらいしかなかったが、今では料理人を雇って洋食も出てくる。 これも時代の流れなのだろう、待たずに席に座れた。 それでもハンバーガーはさすがに作らないだろうが、喫茶にステーキがある時代になっていた。 もうほとんどレストランと変わらないが、コーヒーだけは昔と変わっていない。 グラタンとドリヤをそれぞれ頼んだが健児には違いが分からなかった。 それにサラダを付けて食後にコーヒーを注文した。 刑事時代の癖もあるが、健児は西鉄天神駅の構内にある立ち食いそば屋の方が性にあっていた。 美味いもマズイもなく早く調理出来たものを早く胃袋に詰め込む。 刑事をやっていれば今もそうだったかもしれないが、探偵を始めて忙しさは変わらないが、優子と居る時間が増え、ゆっくり食事をすることも増えた。 捜査中ではあったがたまにこんな時間も悪くないと思う健児であった。 健児は注文を終え、水を口に含むと「ゴック」と一気に流し込み一息ついた。 さて、何から話すべきかは決まってるが、それは浦田愛子が殺されている事が前提の話なので健児は少しためらっていた。 それでも何もしなければ始まらないので、意を決して自分のの考えを優子に話し始めた。
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