夜の天神

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まず優子に「俺の考えだが浦田さんは殺されていると考えている」と切り出した。 「優子も分かっていると思うが、優子自身が持っているその力が大きな根拠だ」。 「次にここまで捜査してなんだが、人間は突然に消えたりしない」。 「そこには必ず理由がある」。 健児は冷静に話を続け、優子はその言葉を聞いて頷くだけだった。 健児は女性が犯罪に巻き込まれる場合んの多くは性犯罪だと説明した上で今回はこれに当てはまらないと考えを示した。 次に金銭だが、何かしらのネズミ講や投資詐欺など大小様々あるが、この場合の多くは殺人にいたらないケースがほとんどだ。 仮に何かしらの宗教トラブルだったとしても前兆はあったはずだ。 近年物騒な噂のある宗教団体の支部が博多に出来ていた。 表向きはヨガ教室と偽り、後に洗脳により、強引に信者にしているとの噂が絶えない宗教だ。 健児の情報提供者からの話では暴力団との接触もあったと聞いているが、あの宗教ならまずは金が動くはずだ。 現状で関係性を否定できないので、念の為に警察に動いてもらっていた。 組織的犯罪と考えた時、可能性があるからだ。 その場合は生きている可能性は十分にあるが、浦田愛子が長年の夢を目前にそこと関係を持つとも考えにくい。 そして何より、優子が見た霊的現象を考えれば、それでは無い気がしていたが、健児は腑に落ちない点について改めて質問をした。 「優子のイメージでは彼女以外に女と男性の二人が視えたで間違いないか?」と健児が尋ねると「間違いはないわ」と優子は答えた。 すると健児はそこが理解できない点だと優子に語った。 「恋愛のもつれなら相手は男性となるが、そこに女性が居るとなると三角関係だ」。 「仮に今年の旅行の相手がその男性だとすると、既婚者かもしれないし、二股だったのかもしれない」。 「ただ普通に考えれば、浦田愛子は邪魔になった」。 「だから、二人で殺した」。 「だとしたら浦田愛子はどっちの怒りを買ったことになると思う?」と聞かれ、優子は考え始めた。 (三角関係で考えれば優子が女性に恨まれた事になる) (何処かで口論となり殺してしまった) (だけどあの男性からは悪意はないように思えた) (でも・・・) (彼の顔、姿、それらは黒い何かに覆われていて歪んで視えた) (あれが何なのかが分からない) (女性の方は愛子より年配者に感じた) (おそらく40歳前後で小柄) (彼女からは確かな殺意を感じ取れた) (女性と男性の関係性・・・) (何度か読み取ろうとするけど、一つにまとまらない、何故?) (月明かりが視えた) (おそらく月の光が射す部屋) (2月26日が満月だったから28日の月はかなり明るいはず) (窓が有り、近くに光を遮る建物が無いか、周りより高い建物かも知れない) そこまで考えを巡らせた時、優子にあるイメージが入ってきた。 (眼鏡を掛けている女性) それまでうつむき加減で、瞼を閉じていた優子が顔を上げ健児にまとまった霊視を伝えようとした時に、食事を持ったウエイトレスがちょうどやって来た。 「お待たせしました」。 「グラタンのお客様は?」と言われ優子が手を上げ「失礼します」とウエイトレスがテーブルにグラタンを置き、セットのサラダを添えた。 その後ドリアを健児の方に置いてサラダを置くと「コーヒーは食後ですね?」と聞かれたので健児が「はい」と応えると「それではごゆっくり」と一礼してウエイトレスは去っていた。 話の出鼻をくじかれたが「まずは食べようか」と健児が優子に笑って話しかけた。 それを聞いた優子は「うん」と頷き、両手を合わせ、小声で「いただきます」と言って食事を始めた。 見た目も皿も全く同じなのによく区別が付くものだと疑問に思っていた健児に気付いた優子は種明かしをした。 「店によって違うけど、どちらかにパプリカを使うのよ」とチーズの上にある赤い香辛料を指さした。 この店ではグラタンにパプリカを使うようで、確かに少量だが優子のグラタンには赤いパプリカが使われていた。 香辛料とはいえ唐辛子と同じ辛味成分があるので軽くふりかけている程度であったが、確かにこれだと、どちらがグラタンか確かに分かると健児は妙に納得した。
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