欲情

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六条雅彦は、大濠公園に面した高級マンションの最上階に住んでいた。 祖父が彼のために用意したこの物件は、彼の人生の成功を象徴するかのように、福岡市内の一等地に堂々とそびえ立っている。 エレベーターが静かに最上階に到着すると、雅彦は無言で扉が開くのを待ち、足を踏み入れた。 廊下を通り、暗闇の部屋に入ると、彼は真っ先に電気を点け、室内を明るくした。 次に、リモコンでエアコンを操作し、暖房を入れた。 冷え切った部屋が徐々に温まり始めると、彼はバスルームへと向かい、お湯を貯め始めた。 テレビのリモコンを手に取って電源を入れるが、画面に映る映像にはほとんど注意を払わなかった。 彼の心はすでに別のところにあり、期待に満ちた興奮で胸が高鳴っていた。 ソファに腰掛け、彼は落ち着かない様子で足を動かし始めた。 まるで子どもがクリスマスの朝を待ちわびるかのように、彼の目はきらきらと輝き、口元には微笑が浮かんでいた。 部屋がすっかり暖かくなると、彼は立ち上がり、ゆっくりと着ていた衣服を脱ぎ始めた。 まるで儀式のように一枚ずつ丁寧に脱ぎ、すべてをきちんとたたんでソファの端に置いた。 そして、裸になった雅彦はバスルームへと向かい、シャワーを浴びる準備を整えた。 シャワーの水が頭上から流れ落ちると、彼は目を閉じ、リラックスした表情を浮かべた。 彼の唇から、クラシック音楽の「月光」が自然にこぼれ出た。 雅彦はメロディを鼻歌で口ずさみながら、シャワーの下で優雅に身体を洗い始めた。 その仕草には几帳面さが滲み出ており、彼の完璧主義がすべての動作に現れていた。 シャンプーを手に取ると、まずは頭皮を丹念に揉み込み、細かい泡が髪全体を包み込むまで、入念に洗い続けた。 その間も「月光」を途切れることなく口ずさんでいた。 彼は次に、石鹸を使って身体を洗い始めた。 指先から肩、胸元、腹部、そして脚へと、まるで芸術作品を磨くかのように一つ一つの部位を丁寧に洗っていく。 手の動きはゆっくりと確実で、少しの汚れも見逃さないかのように繊細だった。 水が全身を流れ落ちるたびに、雅彦の気持ちはさらに高揚し、その鼻歌もますます朗らかになっていった。 やがて、彼の身体は完璧に清められた。 雅彦はシャワーを止め、貯めていた湯船に浸かりやっと一息ついた。 しかし、それほど長く湯船には浸からなかった。 これは彼の、ルーティンである。 湯船から上がると貯めた湯を流し、バスタタオルを取りに行った。 そしてバスタオルで丁寧に水滴を拭い去った。 その時もなお、彼の心は期待に満ちており、子どものようなソワソワした様子を隠すことはできなかった。 彼は待ち望んでいたもので心が満たされ、再び微笑を浮かべた。
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