欲情

3/5
前へ
/62ページ
次へ
六条雅彦は半乾きの髪をドラヤーの温風で乾かしながら、冬に似合う流行のロン毛をクシで髪を整え始めた。 それが終わると、顔に化粧水を手のひらに適量出し、軽くのばしてその後、乳液を顔になじませた。 それが終わると、自分の顔を角度を変えて注意深く観察し、満足すると、腰に白いバスタオルを巻いたまま、寝室に向かった。 そこで下着に履き替え、コムデギャルソンやイッセイミヤケなどのデザイナーブランドのウールニットのパジャマやガウンを着込み、リビングに戻った。 すると六条雅彦はアメリカテネシーウイスキーの「ジャック ダニエル」をキッチンに置きロックグラスを片手に、大きな冷蔵庫の製氷室を開け、氷をグラスに「カララン」と放り込み、そこに結び目のある、かなり大きな黒のビニールも一緒に取り出した。 シンクにグラスと黒のビニールを静かに置くが、黒のビニールの重さでシンクが少し沈むように感じた。 黒いビニールは大きく、不気味な形状をしていた。 六条雅彦はそれらを並べ終えると、両手を肩の高さくらいに上げ、手のひらを自分に向けて、両手を開いたまま、目をつぶり天井を見上げ、「さぁ、始めようか」とつぶやいた。 すると何かのスイッチが入ったのか、体はリズミカルにスイングし始めワルツのようにも見えた。 何かを口ずさんでいるようだが、ハッキリと聞き取れる大きさではなかった。 そして「ジャック ダニエル」をロックグラス注ぐと、そのグラスで大げさな乾杯の仕草を見せた。 次にお酒の香りを楽しむために、鼻元にグラスを近づけると、チャコール・メローイングで製造された、このお酒のバニラやキャラメルバナナのような強く甘い香りを楽しみ、そのままグラスを口元に運び、軽く一口味わった。 すると強く甘い香りを残しなが熱いアルコールが喉元から胃へと流れるのを彼は感じた。 儀式の様な一口のお酒を味わうと、今度は刃こぼれ一つ無いペティーナイフを取り出した。 彼は無言で黒いビニール袋の結び目をそのナイフで切り取ると、黒のビニールは部屋との温度差のため、氷が少しずつ水蒸気になっていく「昇華」という現象を見せていた。 それでも黒いビニールは中のものに張り付いて、剥がれることはなかったが、剥ぎ取る瞬間にナイフに氷の欠片が付着していた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加