欲情

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「さぁ愛子、あの日の夜をもう一度僕に味あわせてくれ」。 六条雅彦はそう呟くと暗がりの中シンクに戻った。 その動きはヌルヌルとした動きで、まるで蛇の様であった。 カーテンを開けたので、かすかな光が部屋に差し込んでいた。 まるで、あの日の夜のよに。 その氷は一切の不純物を含んでおらず、まさに氷の彫刻だった。 彼はこの氷の塊を作るために、精製水を実家から持ち出していた。 あの夜に解体された死体のほとんどは新聞紙で包み、更に黒いビニールで3重に巻かれた後、事務所の冷蔵庫と冷凍庫に保管されたが、頭部のみ六条雅彦が持ち帰ったのだ。 内臓だけは医療用のアルコール消毒液を使うことで、独特の臭みを消す処理を行っていた。 それを1度新聞紙に包み、水分を吸い込ませ、他の部位と同じように処理して冷凍庫に入れていた。 なぜなら内臓は腐りやすいので、新聞紙に包み、他の部位と同じように処理をして、六条雅彦が今日の夕方に生ゴミと一緒に捨てるためであった。 福岡市は深夜集配のため、朝からゴミ捨て場は空いていたが、少しでも異臭を避けたかったので、気温が下がる夕方に捨てた。 また、ゴミ捨て場は野ざらしではなく、囲いがある他の場所が近くにあったのでそこに投棄した。 その後、何事もない顔で六条雅彦は美容室に向かったのである。 全てが計画通り運んで、安堵した彼は、あの日の興奮が今だに忘れられずにいた。 氷の塊の前に立った六条雅彦の下半身は明らかに欲情を表していた。 「愛子、愛子」と口にすると、氷から一滴の水滴がスーッと流れた。 それはまるで涙のように見えた。 それを見た彼はさらに欲情し「あぁ、いい表情だ」と彼の欲情は頂点に達した。 興奮した感情は次第に収まり始めると、消えていた電気が突然ついた。 その瞬間、六条雅彦は我に返った。 彼の目には光、耳にはクーラーの音が入り込むと、氷の塊が溶け始めていた事に気がついた。 彼は慌てて、冷凍庫を開け氷の塊をそのまま冷凍庫に入れた。 そしてシンクに戻り、ジャックダニエルを口に含んだ。 それでも少し興奮状態にあった彼は、「ふぅふぅ」と肩で息をしていた。 そして、自分の下半身に違和感を感じたので、着ていた物を全て脱ぎ、違和感のある下着を真っ先に洗濯機に投げ込んだ。 そして今度は浴室に入り、シャワーを浴びながら、荒い息を吐きながら手を動かしていた。 周囲には不気味な静寂が漂い、彼の息遣いとシャワーの音だけが響いていた。
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