3月2日

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池上優子の自宅では優子を除いた4人が話し合いをしていた。 結論はもう出ていたが、その結論に対してどの様に対処すべきかを今検討している最中であった。 池上家は代々、神道系の家系として知られ、地域の人々から深い信頼を寄せられていた。 一般的なお祓いや清め、地鎮祭などを取り仕切るだけでなく、その中でも特に祓いを得意としていた。 しかし、池上家の歴史の中で、最も困難な祓いが訪れることになる。 それは、六条雅彦という人物に関するものであった。 池上家は、菅原道真公を祀る一族の末裔であり、歴史的にも数々の怨霊を祓ってきた。 しかし、六条雅彦の祓いに関しては、その困難さが異次元のものであると結論づけられた。 菅原道真公の霊力と比較しても、六条雅彦の怨霊は凄まじく強力であり、その原因は別の所にあると祖父の池上博(ひろし)は感じていた。 池上家の祖父は、菅原道真公を祀る一族の末裔であり、その系譜を語るとき、いつも威厳とともに誇りを感じていた。 しかし、雅彦に関する祓いがここまで困難であることを口にするのは、彼の心の中に恐怖と無力感を抱えさせた。 何世代にもわたる神道の信仰が、ここにきて揺らいでいた。 池上博は、この原因が単に六条雅彦の怨霊化に起因するのではないと考えるようになる。 何かもっと奥深い、否応なく巻き込まれるような事情が絡んでいるのではないかと思い始めた。 彼は日本中の宗教や霊能力者に協力を仰ぎ、皆で六条雅彦の怨霊と対峙し、封じ込める提案を持ちかける。 これは単独では決して行えない挑戦であった。 他宗派の力を結集し、全ての人間が共に寄り添うことで、この脅威に立ち向かえると信じていた。 しかし、祭事を行うためには、孫の優子を巫女とし、神の使いとして神格化する儀式も必要だった。 そして封印の儀式は危険であり、悪霊の封印に失敗すれば命を落とすリスクがあった。 祖父は、孫娘の運命を思うと胸が締め付けられるような思いに襲われた。 優子が神の使いとして選ばれることで、家族全体が新たな運命に直面することになる。 祭事の準備が進むにつれ、様々な人物が集まり、霊的な緊張感が高まっていくが、同時にそれは恐ろしい抗争の始まりを意味していた。 本当に、ここまで危険な儀式を行うべきなのか?いつの間にか、祖父の心の中には疑念と怯えが渦巻く。 そして、時間が無情に流れ、彼の決断を待つ家族達は息が詰まるようだった。 池上一族としてやるべきことはやるが、若い命を散らすことは、一族の滅亡を意味していた。 事実、池上優子が池上家最後の子孫である。 祖父を始め、祖母の美智子、父の誠、母の洋子も封印の儀に命をかける覚悟は出来ていた。 だがそれを優子に背負わせる事は出来なかった。 その思いは家族の誰もが同意出来た。 そこで、優子を残し、この件にあたることに話は落ち着いた。 しかし、儀式を行うためには様々な準備と時間が必要であった。 また、協力者たちも命を落とす可能性があることを考慮しなければならなかった。 誰に対しても強制は出来ないが、池上家だけでは明らかに力不足であることは十分理解していた。 そして気がつけば朝日が差し込み始めていた。 その時、祖父の博が「儂らと協力者のみで封印の儀を行う」と決断すると各自が頷いた。 そして祖父を残し各自がやるべき事のために動き出した。
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