血の月夜

六条雅彦

六条雅彦は、福岡市にある名門病院の一人息子として生まれた。

その家庭は一見すると何不自由なく見えたが、実際は歪んだ愛情と冷たい関係に満ちていた。

雅彦の父は有名な外科医であり、家庭を顧みない厳格な性格だった。

手術の腕は一流だったが、家族との時間を持つことはほとんどなく、家にいる時も仕事のことばかり考えていた。

雅彦にとって父は遠い存在であり、心の通じ合いなど一切なかった。

母は医師ではなかったが、雅彦に対して機械的な愛情しか持たなかった。

彼女の育児方針は、雅彦を医大に入れることが全てであり、その過程には感情は存在しなかった。

愛情の代わりに与えられたのは、冷徹な計画と厳しい教育だった。

家庭内で最も支配的だったのは祖父であり、彼の厳しいしつけが雅彦の幼少期を支配していた。

彼は伝統と家の名誉を重んじ、雅彦には常に厳しい目を向けていた。

祖父の厳しさと父母の冷たさが、雅彦の心に深い影を落とすこととなった。