2.嫌がらせ

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 日中、慶王は琴洛殿にて政務をとる。各省、各部の重鎮及び文武百官が集い、慶王に奏上(そうじょう)を述べる。内容は税制や国内情勢について、近隣諸国の動きなど。 (暇そうだな)  国を支配するために必要不可欠な会議をすっぽかした天凱を、紫苑は少し離れた位置から見守っていた。  天凱は特にすることはないのか自由気ままに庭園を歩いていた。時折、紫苑の様子を伺うような仕草をするが文句は言わない。居づらそうにはしているが、大衆の面前で護衛として採用したのは自分だからだろうか。 (うーん、どうやって性格を叩き直すべきか)  相手が英峰なら力づくで叩き直していたが、いかんせん相手は慶王だ。力づくなんてもってのほか。しつこく口頭で注意しても、怒りを買えば一族郎党が生活に(きゅう)するだろう。  特に相手は愚王とまで言われた人物だ。慎重にいかなければならない。どうやって行動するべきか紫苑が迷っていた時、午後を告げる鐘が鳴った。 「紫翠。昼餉(ひるげ)を取りに行くぞ」  天凱は鐘楼(しょうろう)の方角を見ながら、紫苑に言葉を投げかけた。  慶王が食事を摂るのは天華宮(てんがきゅう)房室(じしつ)に戻る必要がある。護衛兵は毒見を終え次第、別の者と交代し、食事を摂りに行くのが通例だ。  けれど紫苑が知っている限り、今現在、天凱の護衛をしているのは自分だけ。あの最低人間が自らの金銭をきってまで他にも護衛を雇っているとは考えにくい。 (昼抜きか)  最低人間の我が儘に付き合っていたおかげで丸一日何も口にしなくても動くことはできるが、朝食べているのと食べていないとでは身体の動きが異なる。護衛の交代や時間など詳しいことを聞いていなかったので自己判断で朝食は多めに摂取したのだが間違いなかったと胸を撫で下ろした。 「お供します」  天凱は鼻で返事をすると庭園を突き進む。慌てて紫苑も後を追った。  どうやら、庭園を突き抜けた方が天華宮に早く着くようだ。まだ城内の構図をいまいち理解できてない紫苑は、頭の中で素早く記憶する。異常事態の時にいち早く天凱の元へ行くために。  庭園を通り過ぎ、いくつかの回廊を歩いていると眼の前に朱色の門が待ち構えていた。掲げられた扁額(へんがく)には力強い文字で『天華宮』と書かれている。天凱の登場に門兵が緊張の面持ちで姿勢を正した。天凱は何も言わず門をくぐり、回廊を歩いていく。  房室に入っていくのを見届けてから紫苑は扉の横へと移動した。天凱が食事を終えるまでここで待機しようと思ったのだが、何を考えたのか天凱は「一緒に食べるぞ」と出迎えてくれた。
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