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「英峰、お願いがあるんだけど」
「え、嫌だ」
「内容聞いて。あなたから慶王様に夜の護衛として私をつけるように言って」
「断られるぞ」
「あなたの二枚舌を使えば言いくるめられるでしょう」
「だるい」
軽薄な態度に苛立った紫苑は卓に立てかけていた棒に手を伸ばした。
「待て! 叩くのはやめろ!!」
「叩かれるようなことしているのは誰?」
「俺」
「分かっているじゃない」
「俺は天才だからな。お前と違って」
分かっていても反省はしない。それが英峰だ。
紫苑は棒を持つと先で床を小突いた。カツンという音に英峰は寝っ転がった状態のまま後頭部を押さえる。別に紫苑は後頭部を狙っているわけではないのに、雨蓉に叩かれた箇所がよほど痛かったらしい。
「ほら、話しを戻そう!」
「話しを逸らしたのはあなたでしょ」
非難がましい視線をさらりと受け流しながら英峰は褥から上半身を起こした。ちなみに後頭部は押さえたままだ。
「しばらくはこのまま昼間のみ護衛を続けてくれ。てか、夜もってなるとお前も倒れるぞ」
「もし、それで慶王様になにかあれば崔紫翠が処罰を受けることになるのよ」
「いいから。お前は昼間のみ護衛して、あの人の内面を探ってくれ。他は考えなくていい」
英峰は目尻を鋭くさせた。
常に薄っぺらい笑みを浮かべる英峰が珍しく怒りの表情を浮かべたので紫苑は面くらう。生まれた時から共にいたが英峰がこのように怒っている場面など野盗狩りを遂行したのに賃金を支払われなかった時や貯めていた銭を盗人に盗られた時など、自分に損があった時しか見たことない。
「英峰は慶王様が大切なんだね」
「あんなに公平な人はいないから。俺はあの人が慶王として頂点に君臨して欲しいんだ」
「そっか……。正直さ、めちゃくちゃ性格悪いなって思っていたんだけど、あなたがそう言うなら信じてみようかな」
純粋な気持ちを口にすると英峰は笑みを浮かべた。いつものように他人を小馬鹿にするようないやらしい笑みではない。あまりにも優しげに笑うので紫苑は驚いた。
「あなたってそんな笑い方できるんだね」
と告げれば優しい笑みは消え去り、またいつもの軽薄な笑みが浮かんだ。
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