3.紫苑の悩み事

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 3.紫苑の悩み事

(なんか奇妙なんだよね)  臥台に寝そべった紫苑は眉間に皺を寄せつつ、考え込んでいた。慶王の護衛として登城し、早二週間。その短い期間に蓄積された不満は小さいながらも着々と紫苑の思考の大半を占めるものとなった。  まず、一つ。自分は護衛役としてなんの役にもたっていない。宮城内には天凱に対して敵意や反感を抱いた者達が多くいたが、怒りを買うのを恐れてなのか直接的に害そうとする者はいなかった。  そのため、天凱の側で過ごした二週間は平穏そのもの。護衛としてよりも、天凱の小間使いとして側に控えていると言っても過言ではない自分の存在に「私、いるのかな?」と何度心が折れそうになったことか。  せめて深夜の警備をと思ったのだが初日同様「いらん」と断られてしまった。命を狙われている身の癖に護衛がいらないなんてどの口が言うんだ、と——口が裂けても言えないが——つい叫びそうになってしまった。紫苑から言っても頷いてくれないのなら英峰から口添えしてもらおうと話をしたが能天気な幼馴染は「本人はいらないって言ってるなら言葉に甘えたら? 夜は休めばいいじゃん」と軽く笑い流していた。 (なんのための護衛だと思っているんだ)  これではただのお飾りでしかない。  二つ目。天凱は紫苑のことを奴婢(ぬひ)だと認識している。料理を浴びせてきたり、仕事をサボる口実に利用されたり、人格否定されたり、歩いている時に足を引っ掛けられ転ばされたり、と彼の暇潰しという名の嫌がらせは止む気配は一向になく、日が経つにつれ酷くなっていく。機嫌を損ねれば嫌がらせはもっと過激なものとなる。  正直、腹は立つし、何度も護衛を辞めたくなった。  だが、辞めたら辞めたで負けたような気持ちになるので意地で続けている。  そして最後の三つ目。宮城内の妙な勢力図について。  現在、白耀城(はくようじょう)はこのまま慶王の席に座り続けて欲しい天凱派と末皇子に王位を継いで欲しい皇太后派の二つに分かれている。  天凱と皇太后の二人は親子ではあるが、血の繋がりは一切ない。天凱の生母は(しょう)氏であり、妃位は春妃(しゅんひ)を賜わった女性だ。天凱の妹である清賢公主を産むも産後の肥立ちが悪く二十九歳の若さで逝去(せいきょ)している。実母が亡くなり、後ろ盾が弱かった天凱の扶養は全て皇后だった皇太后に全権を委ねられた。  当時、黄皇太后は三十八歳。先王との間に一男一女をもうけていたが皇子は十九歳の若さで戦死し、公主は遠い異国に嫁いでいるため黄家の姫であるが後宮での立場は弱かった。
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