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何を一人で遊んでいるんだと紫苑は白んだ目で見下ろした。
「平民なら一生遊んで暮らせるのに!」
「あなたの場合はほぼ借金の返済で無くなるだろうね」
賭博が趣味の英峰がこさえた借金は金銭五十両でぎりぎり足りるかどうかだろう。借金を全て返済しても賭け狂いの幼馴染はきっと早急にまた借金まみれになるのは容易に想像がつく。
「幼馴染が冷たい」
英峰は蹲ったまま顔を覆い、啜り泣いた。
どう見ても泣くフリだ。何度も使われた手段に紫苑は苛立ち舌を打つ。
「俺は不幸者だ……」
「無理難題を何度も押し付けてきて、それでも幼馴染でいてあげている私に言うこと?」
苛立ちのままに紫苑は棒で英峰の頭を軽く叩いた。英峰が破落戸に絡まれ逃げ惑っているのを助けたり、借金の支払い期限が過ぎそうになって泣きついてきたため肩代わりしたこともある。ちなみにだが肩代わりした金はまだ返してもらっていない。それなのに冷酷な人間と呼ばれるのは筋違いではないか、と言うと英峰は啜り泣くのを止めた。
やはり演技だった。全くもって潤んでいない瞳に紫苑を映す。
「なんでそこまで嫌がるんだ?」
「いや、嫌がるに決まっているだろ」
英峰は自分の頭を叩く棒を掴むと紫苑へと顔を近づけた。軽薄な顔が近くなり紫苑は咄嗟に空いていた左手で英峰の顔を鷲掴み、これ以上近づかないようにした。
どう考えても拒絶の意味なのに英峰は気にしていないのか、はたまた気が付いていないのかぐいぐいと顔を近づけようとするので紫苑は「近い!」と怒鳴る。が、やはり英峰は気にしない。
「男として慶王様の家来となり、性格を叩き直した後に女であることを告白するってだけじゃあないか」
なんてこともない、ただ、近所に買い出しに行ってとでもいうぐらい軽く言うので紫苑のこめかみに青筋が浮かぶ。
「慶王様を騙すなんて首切り確定でしょ。ううん、それどころか、一族全員が殺される」
「いい金になるんだ!」
「お金と命なら私は命をとる」
「俺の借金返済を手伝ってくれないんだ?!」
英峰の叫びに、紫苑は片眉を持ち上げた。
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