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「そうだ。科挙に関わることは全部俺達の仕事さ。……本当はさ、統計なんて冬の間に終わらせておくべきなんだけど、うちの無能な豚達磨が部下に指示出すの忘れてたみたいでさ、今、てんてこまい。超修羅場。全国から数千数万という受験生が集まるのに明後日には提出しないと駄目でさ」
「お疲れ様だね」
「本当さ! あいつら俺が寮に入ったのをいいことに〝この量を自分達だけでは終わらせません!!〟って泣きついてきてさ、優しい俺は帰りたいのを我慢して徹夜する羽目になったんだ」
英峰は顔を覆う。「あの豚達磨、いつか絶対に殺す」と不穏な言葉を呟いたのを紫苑は聞き逃さない。
「えっと、その豚達磨さんはさっきいなかったけど別室で仕事してたの?」
豚達磨というからにはふくよかな体型であると考えられる。先程、室内にいた者達は皆痩せているか普通体型だった。性格が歪んでいる英峰でも痩せ型や普通体型の人間相手に豚達磨なんて単語は使わないだろうから物陰に隠れていたかその場にいなかったと紫苑は予測した。
「……た」
「え?」
「帰ったんだよ! あの豚達磨!!」
「声大きい。少し抑えて」
「あいつが無能でことあるごとに茶々入れて仕事を掻き回すのに悪びれもしないでさ〝鬼吏部侍郎と馬吏部侍郎がいるから私入らないだろうから帰らせてもらう。家に愛すべき妻が待っているんだ〟って!! 扇パタつかせて腹立たしい!」
吏部所属の豚達磨、扇パタパタ、鼻につく話し方——その特徴に一致する人物が一人だけいた。
「朱吏部尚書様のこと?」
「ああ、そうだ。紫翠も覚えておけよ! 吏部で一番無能な奴は豚達磨だと!」
「大変だったね」
「……くそっ、今思い出しても腹立たしい。自分が担当するって言った仕事ぐらい自分で終わらせろよ。お前の愛すべきブスが待っているからって俺達には微塵も関係ないんだよ!」
「愚痴なら聞くよ。だからもう少し声を抑えて」
「聞いてくれよ。この前だって——」
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