4.闇夜に紛れて

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「お前、俺の話をきちんと聞いているのか? さっきからぞんざいな返事ばかりだが」 「聞いてるって。朱吏部尚書様は仕事ができないし、他人に仕事を押し付ける癖にその手柄だけ横取りするんでしょ」 「酷いと思わないか!?」 「うん、酷いね」 「さすがの俺でも他人の手柄を横取りなんてしないのに!」 「えっ、したことあるよね」 「したことないぞ」  英峰は足を止めると腕を組み考えだした。  紫苑は山賊退治の報酬について話したのだが、本人には心当たりはないらしい。 「私とあなたで山賊退治したことあるでしょ?」 「五年前と二年前のどっちだ?」 「二年前。あなたが依頼を引き受けて〝後は頼んだぞ〟って私に押し付けてきたやつ。結局、私一人で山賊退治したのに報酬は山分けだったじゃない」 「いや、だって、依頼を見つけたのも俺だし、依頼主に報告したのも俺だ。普通に報酬は五対五の山分けでいいに決まってる」 「あなたのやったことはほんの数刻で終わるけど、私は退治に二日もかかったよ。単純に労働時間が違うでしょ」  昔のように英峰が作戦を練り、それを自分が実行すると紫苑は考えていたが英峰は近所の子供と蹴鞠(しゅうきく)をするからと颯爽と帰宅したため、盗賊退治は紫苑一人で作戦を練り、実行することとなった。負った怪我は軽傷だったが退治が完了するまでに丸二日もかかってしまった。  どう考えても紫苑の仕事量の方が多い。その時は報酬の割合について文句を言わなかったが二対八でもよかったと時々考えてしまう。 「……で、俺を呼び出してまでしたい相談ってなんだ?」  英峰はいい笑顔でわかりやすく話題を変えた。これ以上突かれたくないらしい。本当に腹が立つ。 「どうせ慶王様の女嫌いについてだろ?」  勝手に悩みを決められた。違うと否定したいが現状的に言えないので言葉を飲み込む。 「慶王様の女嫌いは凄いだろ」 「ちょっと、声大きいよ」  曲者に聞かれでもしたら、と声を落とすように言うが英峰は気にしない。 「みんな知っていることだから別にいいさ。知られてもどうにでもなる」  どうやら曲者に聞かれてもいい内容のようだ。それなら紫苑も気にすることはないなと考える。
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