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「なんであなたの借金のために私が駆り出されるわけ?」
英峰との繋がりは幼馴染の腐れ縁という切りたくても切れない縁しかない。幼い頃は縁談も持ち上がったが紫苑の祖父が難色を示したので無くなり、今では話題にすら出すことは禁じられている。
なので、たかが一介の幼馴染の我が儘にこれ以上、付き合う必要はない。
なのに、
「俺とお前は幼馴染だろう?」
なにを当然のことを言わせるんだ? と英峰が不思議そうに両目を瞬かせたので紫苑は重々しい溜息をはく。悪い意味で純真無垢な英峰は心の底から紫苑が手伝うのが当たり前だと思っているようだ。
紫苑は苛立ちのままに英峰の足を棒で薙ぎ払った。無様に地面に転がったのを見届けてから襟を掴み、引きずっていく。引きずられてもなお英峰は仕事の利点をつらつらあげるのでそれに適当に「そう」「へえ」と相槌を打ちながら門へと向かった。
門の前につくと紫苑は襟を掴む手を離した。支えをなくし、頭を打った英峰は後頭部を抑えつつ涙目で紫苑を見上げる。
「ねえ、英峰。私は確かにあなたの幼馴染だけど、子分でもないの。手下でもないし、部下でもない」
「何を当たり前のことを言っているんだ?」
英峰は首を傾げた。
紫苑は再度、英峰の襟と帯を掴むと力任せに門の外へと放り投げる。
「幼馴染をゴミのように扱うな!」
ごろごろと転がった末、地面に伏した英峰は抗議の声をあげた。
それを紫苑は冷たい目で一瞥する。
「一人で解決しろ。くだらない話に私を巻き込むな」
鋭い声で言えば英峰は諦めたように俯いた。
少し言い過ぎたかと後悔するが今までさんざんこの男に利用されていた過去を思い出し、紫苑は少し反省すればいいと声をかけることはせず、そのまま自宅に戻るために踵を返した。
——この時、紫苑は忘れていた。英峰がどんなに諦めが悪く、狡賢いことを。そのせいで今までどんな目に合ってきたのかを。
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