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「これ、分かるだろ?」
房飾りを見つめた紫苑は微かに目を細めた。
「恋人同士が着ける装飾品に見えるけど」
「恋人だと?」
天凱は両目を丸くさせる。
知らないのも無理はない。この房飾りは城下で流行っているもののため馴染みがないのだろう。紫苑も知人から聞いていなければ、ただの帯飾りだと勘違いしていた。
房飾りに使われているのは小ぶりだが紅玉石だ。宝石言葉は「愛情」。結び目や房の長さ、素材が同じものが対で売られているため、恋人とお揃いにできると評判だ。
それを曲者は帯飾りとして着用していた。
つまり、
「この男には恋人がいるというのか?」
「そうっすよ。そんな事も分からない、相談する相手もいないあんた一人で公主サマを見つけ出せると思ってんすか?」
天凱はさも不快そうに眉を寄せる。
だが、反論はしない。黙って英峰と紫苑を見つめた。
「どうせ、あんたの事だ。紫苑を虐めたのって自分から遠ざけるためなんでしょ。痛めつけるなら心と体をずたずたにしないと中途半端なんですよ」
「……」
「率直に言います。公主サマ、行方不明になったんじゃなく、連れ去られたんでしょ?」
「……ああ」
天凱は喉奥から声を絞りだすと「だから」と続ける。
「英峰、君の言う通りだ。紅琳は連れ去られた。この男は予を……私を監視するために付けられた宦官だ」
「やっと教えてくれるんすね。ほら、だったら早く頼んでくださいよ。〝妹を助けるのを手つ——いで!!」
ガン! と鈍い音が闇夜に響くと同時に英峰が頭部を抑えてうずくまる。
「あなたは言い過ぎ」
地面で丸くなる幼馴染を紫苑は冷めた目で見下ろした。黙って二人の会話を見守る予定だったが、英峰が面白がり始めたので力づくで止めた。やはり、ゲスな性格は簡単に治らないものだな、と痛みでのたうち回る幼馴染を見てそう思った。
「だってさぁ! 素直に助けてって言えばいいのにさぁ!! どーせ、〝予一人でいい。お前達は忘れろ〟って馬鹿の一つ覚えで繰り返すんだぜ!?」
「うるさい。騒がないで」
もう一度、脳天に拳を振り下ろす。英峰が再度、地面に沈んだ。
「あの、慶王様」
「……なんだ」
「そんな警戒しないで貰えますか……」
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