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話しかけたらあからさまに顔が強張り、重心が後ろに下がった。確かに英峰に暴力をふるったが、ここまで警戒させるとは思わなかったので紫苑は悲しい気持ちになる。別に自分は暴力人間ではない。ゲスな幼馴染と山賊等に対してしかふるわないと誓っている。
「英峰は無事か」
いつものぶっきらぼうな物言いではないことに紫苑は目を剥く。あの粗野な言動は英峰が言っていた演技なのだろうか。
「ああ、すぐ回復すると思いますよ。いつもそうですし」
「いつも……。君は大人しいと思ってた。私の嫌がらせにも耐えていたし」
天凱は俯いた。
「今、ここで立ち去るなら君達に危害は加えないと約束する。今夜見たこと、聞いたことを全て忘れるなら」
「それは、命令ですか? 慶王様としての」
「……いいや、お願いだ」
「では、お断りします」
はっきり告げれば天凱はバッと顔を上げた。繊細な美貌は驚愕に満ちている。
紫苑が大人しく従うと思ったようだが、そんな可愛らしい性格はしていない。今までの話が本当なら天凱は一人で戦い続けるということだ。自分はただの護衛だが、崔大将軍の孫。最後まで付き従うつもりである。
そう伝えると天凱は泣きそうに顔を歪めた。
「……すまない。あんな嫌がらせしたのに、そう言ってもらえるなんて思わなくて」
「いや、あれが嫌がらせなんて生温いぞ」
痛みから復活した英峰は地面に横たわりながら口を挟む。(敬語と言っていいのか微妙だが)敬語をやめると、まるで親しい友相手に語らうように馴れ馴れしい言葉遣いで言葉を重ねる。
「熱湯でもかけて大火傷負わせたり、階段から突き落とせば嫌がらせともいえるが」
「それは嫌がらせじゃなく、傷害罪だ」
顔を青くさせた天凱が訂正する。
「本当に君は変わらないな」
「まあな、これが俺さ」
褒められているわけじゃないのに英峰は嬉しそうに胸を張った。
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