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「——んで、どうするんだ?」
英峰は体を起こすと天凱を見上げた。
「天凱、俺はお前の口から聞きたい。お前はどうしたい? 一人で戦い続けるのか、仲間を増やして戦うか」
天凱は言い淀む。柳眉を極限までひそめると視線を彷徨わせて、長考する。しばらくしてからぱっと顔を持ち上げた。
「私は、紅琳のためならばこの命も惜しむことなく差し出すつもりだ」
「知ってる。お前が家族思いなことはずっと昔からな」
「紅琳を救うためなら誰でも利用してみせる」
「ああ。利用すればいい。お前は慶王サマなんだから」
「……英峰、紫翠。君たちを利用させてくれ」
ふっ、と英峰は口角を持ち上げる。自信満々に胸を張ると拳で胸を叩く。
「利用しろ! 紫苑は頑丈だし、強いし、俺には劣るが頭もまわる。すり潰してカスになるま——」
「わざと自分を除外しないで。あなたも入っているんだから」
反射的に紫苑は英峰の背中を殴打した。
「……あの、怯えないでください」
あからさま距離を取る天凱に紫苑は軽く笑いかける。
天凱はちらりと紫苑の顔色を伺うがすぐに視線を地面に伏せる英峰に見定めた。
「英峰、生きているか?」
「慣れてるから平気」
「慣れて……」
「こいつ、暴力が愛情表現だからな」
紫苑は天凱の前なことも忘れて舌打ちした。風評被害も甚だしい。紫苑だって好きで暴力を振るっているわけではない。言葉で諭しても諭せないから、仕方なく殴って止めているだけだ。
「なあ、天凱」
「どうした」
「紅琳のガキは生きてんの?」
天凱が息を呑む。大きく目を見開き、拳を強く握った。
紫苑はその背中に足でも落としてやろうかと画策する。親しい仲でも相手は皇族なのだから敬称で呼ばなければいけないのに、まさかのガキ呼ばわり。
しかも、生きているのかという繊細なことを不躾に聞くだなんて。紫苑がここでその背を踏みつければ、ただでさえ低い天凱からの評価が「暴力人間」となってしまう。そうならないためにも二人の会話に耳を傾けつつ、足元で転がる男の亡骸を片付けることにした。
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